カテゴリ:だから
華奢なドレスのシルクが風にゆれて、それでも夜がきた。彼女は車を降りて、ゆっくりとエントランスを、そのホテルのロビーへと向かう。
週末の最終便で伊丹に降りて、京都への高速で、彼とメールを打ち合っていた。 ひとけのない、週末のラウンジは、簡素で豪華な花瓶のみだれさく、虞美人草の清楚な芳しさを囲むように、まばらにてもちぶさたな人がおのおのソファにすわっている。大理石のエレベータに、荷物をもったベルボーイと乗り込む視線の片隅に、彼はたしかにいた。 がらんとした部屋には、彩りの花束が届けられていた。その男はそういった周到な何か女を女王のように扱う、慇懃無礼なところがあった。 とつぜんの結婚の話は、やはり以下のようなメールだった。 「急でもうしわけないが、結婚することになった、ぼくのことはわすれてくれ」 午後三時の青山のカフェの、ありきたりな携帯に、ごく自然に、それは送られてきた。誤配信かなと感じたが、悪寒のような、冷気を覚えて、風景が凍って見えた。 彼を愛していたわけではないが、最終便を予約して、そのカフェを出て、予定をすべてキャンセルした。 ドアベルが、鳴った。ドアをあけると、小娘が立っていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 28, 2007 07:34:21 PM
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