カテゴリ:だから
忘れていた彼女のフルネームを忽然と思い出した端末の前の夕方、彼は彼女の名前で検索する。 10年前の愛媛の版画展のなかに彼女の名前はあったが、検索結果は10件に満たなかった。 新宿から女子医大方向にすこしあるいたマンションの7Fに彼女のアトリエはあった。 彼は彼女に呼び出されると、そのちいさなエレベータに乗った。その部屋には多摩美の支援によるCG機材があふれかえっていた。 彼女はデザイナーで僕はエンジニアだった。あるイベントで名刺交換して、ときおり機材のことで彼女は彼を彼女のマンションに呼び出した、そういえば、彼女とその部屋以外であったことはない。 彼女は僕の人生を変えた。 二子多摩川園の夕日の中にいた。 その電話はよく覚えている。 「紹介したいひとがいるの」 原宿のOFFICEは、カリフォルニアのどこかの、人の気配のしない、どちらかといえばシンクタンクのようなOFFICEだった。 その男は私に似ていた。 その夜かれのMELSEDESで青山に中華を食べにいった。 彼のPROJECTは煮詰まっていた。BUGETが300Kオーバーし、彼のパートナーたちは、彼から金をむしりとっていた、ビジネスとはむしりとるものだけれど。 「彼女とはビジネス以上の関係はありません」 「そうか」 彼女を、多忙にまぎれて、みうしなった。 「お忙しそうね、ご活躍で」 「いえ、おちついたら、うちのスタッフのDIRECTIONをと考えています」 「そう」 彼は落ち着かなかった。激しい嵐が吹いていた。時代が大きな音をたてて、彼を向こう側に追いやった。 そして彼女を忘れた。 結果として初めて人を見捨てた。 君が男ならすぐに引き抜けたのに。 いっそのこと結ばれていたなら、 あんなふうにならなかったのに。 語り明かした夜、情熱が萎えてくると、 ふしぎとその名を思い出す。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jun 14, 2007 06:02:36 PM
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