カテゴリ:小説「ある結婚」
風の通る廊下で、彼女はつぶやくようにいった。 世界はまわっている、僕をおきざりにしたまま、それを気にしなくていいと、女のきづかない場所の、懸命なつみかさねは、徒労ではないはずだと。 「わたし来年結婚する、いいでしょ一度くらい」 「だれと?」 彼女はあいまいにほほえむ。 「孤独だからわたしが必要なんでしょ」 「孤独はあきた」 「わたしはあなたのそれを理解できないの、そばにいてあげたいけれど、あなたのお役にたてるかよくわからないの」 あいまいな表情は、確信のそれに変わっていた。あなたのお役にたてるかよくわからないの、どこかできいた台詞だった。僕は絶望のなかで、激しい怒りがこみあげてきた、その婉曲なおこがましさを。この女も生理的な感情だけで、人生の一大事を決めていくのか、僕への相談もなく。
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Last updated
Jul 6, 2007 08:30:29 AM
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