カテゴリ:だから
きわめてささいな、ささくれだった気分のまま、おかわりのグラスにワインを注いだ。お酒を飲んだとして、酔いが醒めれば、世界はそのままにある。だから嫌いだといった、それは必要ないと。
午前3時の寝室は窓が開けはならたれて、ごくわずかな風がブラインドを揺らしている。薄明かりのテーブルにコルクの栓が転がっている。酸味の強い酒はキッチンのおくまったところに、ある夜のビーフシチューの残りだった。 「これおいしくないね」 「じゃ料理に使うか」 ストライプのパジャマで、アルコールを探す午前3時。 いうまでもないがワイン好きな女は嫌いだった。まあそういった好みの分かれる飲み物というか、ある人がまずいと思うワインはほかの人にはおいしいのだろうか?なぜかそれは歴然と好みというより、まずいワインとおいしいワインの二種類しか存在しないような気がしていた。 そしてその開封して、かなり時間のたったワインは、いうまでもなく前者だった。 松坂牛の、ミネラルとワインだけで、味を調えていくのに数時間かかった。そして繰り返す味見で、できあがるころには食べたくなくなっている。それでもつくるのは食べさせたいと思う思いにすぎないのだけれど。そういった時間の共有の意味を、飲み干すようにして、グラスを置いた。 まわってくる酔いに、もう愛のビーフシチューをつくることもないのだろうと、漠然と考えた、それは愛とは関係のない事柄なのだから。 愛はワインのようなものなのだろうかとおぼろげに考えながら かすかにブラインドの窓にあたる音がきこえる中で、再び眠りに落ちた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 8, 2008 11:05:13 PM
コメント(0) | コメントを書く |
|