照葉樹林文化について
農業が、「カルチャー」の基礎である。照葉樹林という独特の「豊かな自然風土」を持つ地域では、共通するカルチャーの型が営まれた。それは食生活や一般の精神文化の形をも包摂するような、裾野の広がりを持っているらしい。 というのが、どうやら中尾先生のご意見のようだ。長年のフィールドワークの積み重ねで得られた、貴重な意見である。 小生は、実は全く相違する意見を抱いている。フィールドワークの裏づけもない、単なる思い、それもバーチャルな印象に過ぎないのだが。 言語が、「文化」の基礎である。照葉樹林という「過酷な自然風土」を持つ地域には、種族競争に敗れた大勢の黒頭たちの末裔が逃げ込んだ。そして過去の、豊かで生産性の高かった農業を棄て、新しい自然風土に見合う独自の農業の型をつくりあげていった。彼らの流浪の文化は、その歴史上のいきさつからか、あるいは言語の特性からかは不明であるが、基礎を常にバーチャルなものに置いているようだ。 実は、最近、中尾先生の著作の読書に凝っているのである。先生の興味を引くのはカルチャーの型であって、人種の方ではないのだろうが、結果的に人種地図が見えてくる。そして好事家なら知っているレプチャ族とかカーシー族の風俗習慣などが、さりげなく、ふんだんに出てくるのである。その界隈にはワ族も住んでいる。 ついでに照葉樹林文化に特徴的な植物を上げておこう。 ワラビ、コンニャク、ヤマノイモ、シソ、カイコ、ムクロジ、ウルシ、チャ、ミカン、ヤマモモ、ビワ。 先生も書いているが、日本人やレプチャ族は異常に多くの種類の野菜を食う民族である。こんな種族は世界では珍しいのだ。中国人(漢民族)やイタリア人やインド人も野菜は食うが、日本人の比ではない。外国で野菜というのは、副食ではなくてハーブなのである。 これは現在は変わってきているのかも知れないが、日本人の野菜食は植物相の豊かさから来ているのではなくて、過去の貧しい暮らしから由来しているのである。肉や魚や穀類が満足に食えないので、野の野草をかき集めて食ってきた、遠い過去の文化の名残なのである。 そして中国経由で来たという伝統野菜のほとんどが、地中海や西アジア原産というのも面白い。その連結線の途上にチベットが出てくるのである。中国といっても、照葉樹林地域に昔から居たのは漢民族ではなくて、ロロ系、ミャオ系の人々である。 つまり北径路のシルクロードではなくて、南径路のシルクロードが考えられているのだ。 西洋ではキャベツ類のみが発達した蔬菜類である。 地中海気候の地域に原生していた蔬菜類が冬作物として中国南部で大発展し、大挙してわが国にもやってきている。ところが、中国では自生の野生種から栽培種となった野菜は実に少ないらしい。先生は、夏に栽培しても冬型植物が柔らかなので好まれたのではないかと見ている。中国は、野草をかき集める必要の無い、豊かな地域だったのであろう。写真はビギバム・コンパクツム 小さくて可愛い。花期長い。