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医療報道を斬る

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2008.08.22
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カテゴリ:医療
第5 被告人が行った医療措置の妥当性・相当性、結果を回避するための措置として剥離行為を中止して子宮摘出手術に移行すべき義務の有無
1 検察官は、子宮摘出手術等への移行可能性とこれによる大量出血の回避可能性があることを前提とした上で、被告人は、遅くとも用手剥離中に本件患者の胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点で、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行し、大量出血による本件患者の生命の危険を未然に回避すべき注意義務があったとするので、移行可能性、回避可能性について検討した後、医学的準則及び胎盤剥離中止義務について検討する。
2 子宮摘出手術等への移行可能性について
 被告人が胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点においては、本件患者の全身状態は悪くなく、意識もあり、子宮摘出同意の再確認も容易な状況にあった。
したがって、手術開始時から子宮摘出手術も念頭に置いた態勢が取られていたこと等に鑑みれば、検察官が主張するとおり、同時点において、被告人が直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することは可能であったと認められる。
3 移行等による大量出血の回避可能性
 一般論として、通常の胎盤剥離の出血量よりも前置胎盤の剥離の出血量の方が多く、それよりもさらに前置胎盤と癒着胎盤を同時に発症している胎盤の剥離の出血量の方が多いことが認められる。
 本件において、クーパー使用開始直前時点までに被告人が用手剥離によって剥離を終えていた胎盤は、後壁部分と考えられる部分のおよそ3分の2程度であり、胎盤全体との関係では3分の1強程度である。この剥離部分は、用手剥離で剥離できた部分で、そこからの出血はあまり見られず、出血が多かったのは、その後、被告人がクーパーを使用して剥離した後壁下部であったこと、病理学的にも癒着胎盤と認める根拠に乏しい部分であることから、この剥離部分からの出血量は、いわゆる通常の胎盤の剥離の場合の出血量と同程度と推認される。
 そうすると、胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行した場合に予想される出血量は、胎盤剥離を継続した場合である本件の出血量が著しく大量となっていることと比較すれば、相当に少ないであろうということは可能であるから、結果回避可能性があったと解するのが相当である。
4 医学的準則及び胎盤剥離中止義務について
(1)検察官の主張
 検察官は、移行可能性と回避可能性がいずれもあることを前提とした上、さらに、胎盤剥離を継続することの危険性の大きさ、すなわち、大量出血により、本件患者を失血死、ショック死させる蓋然性が高いことを十分に予見できたこと、及び、子宮摘出手術等に移行することが容易であったことを挙げ、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することが本件当時の医学的準則であり、本件において、被告人には胎盤剥離を中止する義務があったと主張する。そして、上記医学的準則の根拠として、医学書、及び、C医師の鑑定(C鑑定)を引用する。
(2)弁護人の主張
 これに対し、弁護人は、癒着胎盤で胎盤を剥離しないのは、(1)開腹前に穿通胎盤や程度の重い嵌入胎盤と診断できたもの、(2)開腹後、子宮切開前に一見して穿通胎盤や程度の重い嵌入胎盤と診断できたもの、(3)胎盤剥離を試みても癒着していて最初から用手剥離ができないものであり、用手剥離を開始した後は、出血していても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合に子宮を摘出するのが我が国における臨床医学の実践における医療水準であると反論する。
(3)産科の臨床における医療措置
ア 本件では、癒着胎盤の剥離を開始した後に剥離を中止し、子宮摘出手術等に移行した具体的な臨床症例は、検察官側からも被告人側からも提示されておらず、また、当公判廷において証言した各医師も言及していない。
イ 次に、上記医師らのうち、C医師のみが、検察官の主張と同旨の見解を述べるが、同医師が腫瘍を専門とし、癒着胎盤の治療経験に乏しいこと、同医師の鑑定や証言は、同医師自ら述べるとおり、自分の直接の臨床経験に基づくものではなく、主として医学書等の文献に依拠したものであることからすれば、同医師の鑑定結果及び証言内容を、臨床における癒着胎盤に関する標準的な医療措置、あるいはこれを基準とした事案分析と理解することは相当ではない。
ウ 他方、上記医師らのうち、D及びE医師の産科の臨床経験の豊富さ、専門知識の確かさは、その経歴からのみならず、証言内容からもくみ取ることができ、少なくとも、臨床における癒着胎盤に関する標準的な医療措置に関する証言は、医療現場の実際をそのまま表現しているものと認められる。また、中規模病院に勤務するF医師も同様の見解を述べる。
 そうすると、本件では、D、E両医師の鑑定ないし証言等から、「開腹前に穿通胎盤や程度の重い嵌入胎盤と診断できたものについては胎盤を剥離しない。用手剥離を開始した後は、出血をしていても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合には子宮を摘出する。」ということが、臨床上の標準的な医療措置と解するのが相当である。
エ 医学書の記載
医学書に記載された癒着胎盤の治療及び対処法をみると、用手剥離にとりかかる前から嵌入胎盤、穿通胎盤であることが明確である場合、あるいは剥離を試みても全く胎盤剥離できない場合については、用手剥離をせずに子宮摘出をすべきという点では、概ね一致が見られる。しかしながら、用手剥離開始後に癒着胎盤であると判明した場合に、剥離を中止して子宮摘出を行うべきか、剥離を完了した後に止血操作や子宮摘出を行うのかという点については、医学書類から一義的に読みとることは困難である。

オ 判断
 (ア) 検察官は、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することが本件当時の医学的準則であり、本件において、被告人には胎盤剥離を中止する義務があったと主張する。これは、一部の医学書及びC鑑定に依拠するものであるが、C鑑定が、臨床経験よりも多くを医学書に依拠していることは前述のとおりであるから、結局、検察官の主張は、医学書の一部の見解に依拠したものと評価することができる。
(イ) しかし、検察官の主張は、以下の理由から採用できない。
 a 臨床に携わっている医師に医療措置上の行為義務を負わせ、その義務に反したものは刑罰を科す基準となり得る医学的準則は、当該科目の臨床に携わる医師が、当該場面に直面した場合に、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の、一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない。
 なぜなら、このように解さなければ、臨床現場で行われている医療措置と一部の医学書に記載されている内容に齟齬があるような場合に、臨床に携わる医師において、容易かつ迅速に治療法の選択ができなくなり、医療現場に混乱をもたらすことになるし、刑罰が科せられる基準が不明確となって、明確性の原則が損なわれることになるからである。
 この点につき、検察官は、一部の医学書やC鑑定に依拠した医学的準則を主張しているのであるが、これが医師らに広く認識され、その医学的準則に則した臨床例が多く存在するといった点に関する立証はされていないのであって、その医学的準則が、上記の程度に一般性や通有性を具備したものであるとの証明はされていない。
 b また、検察官は、前記のとおり、胎盤剥離を継続することの危険性の大きさや、患者死亡の蓋然性の高さや、子宮摘出手術等に移行することが容易であったことを挙げて、被告人には胎盤剥離を中止する義務があったと主張している。
 しかし、医療行為が身体に対する侵襲を伴うものである以上、患者の生命や身体に対する危険性があることは自明であるし、そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難である。したがって、医療行為を中止する義務があるとするためには、検察官において、当該医療行為に危険があるというだけでなく、当該医療行為を中止しない場合の危険性を具体的に明らかにした上で、より適切な方法が他にあることを立証しなければならないのであって、本件に即していえば、子宮が収縮しない蓋然性の高さ、子宮が収縮しても出血が止まらない蓋然性の高さ、その場合に予想される出血量、容易になし得る他の止血行為の有無やその有効性などを、具体的に明らかにした上で、患者死亡の蓋然性の高さを立証しなければならない。そして、このような立証を具体的に行うためには、少なくとも、相当数の根拠となる臨床症例、あるいは対比すべき類似性のある臨床症例の提示が必要不可欠であるといえる。
 しかるに、検察官は、一部の医学書及びC鑑定による立証を行うのみで、その主張を根拠づける臨床症例は何ら提示していないし、検察官の示す医学的準則が、一般性や通有性を具備したものとまで認められないことは、上記aで判示したとおりである。そうすると、本件において、被告人が、胎盤剥離を中止しなかった場合の具体的な危険性が証明されているとはいえない。
(ウ) 上記認定によれば、本件では、検察官の主張に反して、臨床における癒着胎盤に関する標準的な医療措置が医療的準則として機能していたと認められる。
(エ) 以上によれば、本件において、検察官が主張するような、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行することが本件当時の医学的準則であったと認めることはできないし、本件において、被告人に、具体的な危険性の高さ等を根拠に、胎盤剥離を中止すべき義務があったと認めることもできない。したがって、事実経過において認定した被告人による胎盤剥離の継続が注意義務に反することにはならない。
5 以上の検討結果によれば、被告人が従うべき注意義務の証明がないから、この段階で公訴事実の第1はその証明がない。

第6 医師法違反について
1 医師法21条にいう異状とは、同条が、警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか、警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にしようとした趣旨の規定であることに照らすと、法医学的にみて、普通と異なる状態で死亡していると認められる状態であることを意味すると解されるから、診療中の患者が、診療を受けている当該疾病によって死亡したような場合は、そもそも同条にいう異状の要件を欠くというべきである。
 本件において、本件患者は、前置胎盤患者として、被告人から帝王切開手術を受け、その際、子宮内壁に癒着していた胎盤の剥離の措置を受けていた中で死亡したものであるが、被告人が、癒着胎盤に対する診療行為として、過失のない措置を講じたものの、容易に胎盤が剥離せず、剥離面からの出血によって、本件患者が出血性ショックとなり、失血死してしまったことは前記認定のとおりである。
 そうすると、本件患者の死亡という結果は、癒着胎盤という疾病を原因とする、過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果といわざるを得ないから、本件が、医師法21条にいう異状がある場合に該当するということはできない。
2 以上によれば、その余について検討するまでもなく、被告人について医師法21条違反の罪は成立せず、公訴事実第2はその証明がない。





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Last updated  2008.08.22 13:03:46
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