自衛隊の本業は国土防衛です。災害派遣などの仕事をすることはあるものの、本業の機会は未だありません。それでも多額の予算を費やして、自衛隊は運営されています。
救命救急活動を除いた消防署の消火部門も、自衛隊ほどではありませんが、出動するより待機の方がずっと多いはずです。それでも、やはり税金を使って運営されています。
一方、救急医療は自前で運営しなければなりません。実際に救急医療を担うのは、他の仕事を免除されて救急のために待機している医師ではありません。通常の業務をしながら、休日や夜間は当直という名の救急医療をさせられている医師なのです。
本当に救急医療を充実させたいのであれば、自衛隊や消防署と同じように、救急医療のためだけに待機している医師を配置しなければなりません。当然、それなりのコストがかかります。でも、国防や消火活動に予算を使えるのであれば、救急医療にだって予算をかけられるはずです。
脳出血に「対応できぬ」と7病院が拒否し、妊婦が死亡
記事:読売新聞 【2008年10月22日】
脳出血を起こして緊急搬送先を探していた東京都内の妊婦(36)が、七つの医療機関から受け入れを断られ、出産後に死亡していたことが22日、わかった。
いったん受け入れを断り、最終的に対応した都立墨東病院(墨田区江東橋)は、緊急対応が必要な妊婦を受け入れる病院として都の指定を受けていた。都は詳しい経緯を調べている。
赤ちゃんは無事
都などによると、今月4日午後6時45分ごろ、江東区に住む出産間近の妊婦が頭痛や吐き気などを訴え、同区内のかかりつけの産婦人科医院に運ばれた。医師は、墨東病院に電話で受け入れを要請したが、同院は「当直医が1人しかいないので対応できない」と断った。医師は引き続き、電話で緊急対応が可能な病院を探したが、「空きベッドがない」などの理由で、同院を含め計7病院に受け入れを断られた。
医師は約1時間後、再び墨東病院に要請。同院は別の医師を自宅から呼び出して対応し、同9時30分ごろから帝王切開で出産、同10時ごろから脳出血の手術をしたが、妊婦は3日後に死亡した。赤ちゃんは無事だった。
墨東病院は、母体、胎児、新生児の集中治療に対応できる「総合周産期母子医療センター」として1999年6月に都が指定。
同センターに関する都の基準では、「産科医を24時間体制で2人以上確保することが望ましい」とされている。しかし、同病院では、産婦人科の常勤医が2004年に定員の9人を割ってから、慢性的に不足しており、現在は、4人にまで減っていた。
そんな中、当直も担当していた非常勤産科医が6月末で辞め、7月以降は土日、祝日の当直医を1人に縮小しており、妊婦が搬送された4日は土曜日だった。
都の室井豊・救急災害医療課長は「搬送までの時間と死亡との因果関係は不明だが、もう少し早ければ、命が助かった可能性も否定できない。産科の医療体制が脆弱(ぜいじゃく)だった点は問題で、早急に対策を取りたい」として、受け入れを断った他の病院についても、当時の当直体制など、詳しい事情を聞いている。
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[解説]産婦人科の「緊急」指定病院なのに…
妊婦の救急搬送を巡っては、奈良県の大淀町立大淀病院で一昨年、出産の際に意識不明になった女性が、19病院から受け入れを断られ、搬送先の病院で死亡した例がある。この悲劇が繰り返された。
読売新聞社は、16日の医療改革提言で、救急たらい回し解消のため、24時間、どんな患者も受け入れる救急病院「ER」(救急治療室)を全国400か所に整備することを求めた。都立墨東病院は、妊産婦や新生児の緊急治療を行う総合周産期母子医療センターに指定されているうえ、ERでもあるが、産婦人科の当直医が1人だけで、1回目の受け入れ要請を断らざるを得なかった。産科の医師不足が影を落とした形だ。
医師不足対策には、病院同士が協力し、医師を拠点病院に集める「集約化」を進めることが重要だ。
大阪府泉佐野市と貝塚市の両市立病院では、ともに産婦人科の当直医が1人体制だった。そこで今春から、夜間は貝塚病院の医師が泉佐野病院に出向き、同病院の当直を2人にして救急体制を強化した。貝塚病院産婦人科は当直医を置かず、婦人科手術を引き受ける。
病院が役割分担し、広域で産科救急を支える仕組みを早急に整えるべきだ。
(医療情報部 山口博弥)
今回の事例を教訓として、どのような対応策をとるつもりなのかで今後の医療の方向が決まるような気がします。体制の不備を反省し、予算をかけて万全の体制を構築すべく努力するのであれば建設的な方向となるでしょう。断らざるを得なかった病院をバッシングして事足れりとするのであれば、お先真っ暗です。
東京でこのような事態が起こるのですから、すでにお先真っ暗と言えるのかも知れませんが。