医師法21条に「医師は、死体又は妊娠4カ月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と規定されています。問題は異状とは何かと言うことです。本来は犯罪の可能性のある死を届けなさいという趣旨だったはずなのですが、
法医学会の異常死ガイドラインなる物が発表されて、拡大解釈により、医療行為に伴い希に起こる重大な合併症も対象になるかのごとく言われるようになりました。
最近は問題になると困るからと、積極的に医療関連死を届けるようになりましたが、届けられた警察には過失の有無を判断することは出来ません。届けてきたのだから事件なのだろうと捜査を開始することも多いように思われます。事は刑事事件ですから、捜査の対象となった医師は大変です。たとえ費用がかかっても、保険から支払われることもありません。そうした風潮の中、死亡という重大な結果であろうと、やむを得ない合併症は届けないという判断を下した病院があります。
過って肝臓刺し失血死 茅ケ崎市立病院、警察に届けず
2008年12月28日 朝日新聞
神奈川県の茅ケ崎市立病院呼吸器外科で9月下旬、患者の胸部に特殊な管を差し込む際に過って肝臓を刺し、患者が失血死していたことが病院側への取材で分かった。病院側は「出血は、通常の手術を行った結果、起きた合併症」として過失を否定、警察に届けていなかった。
病院側の説明によると、死亡したのは60代後半の女性で、「気胸」を患っていた。肺の穴から空気が漏れ、肺と肋骨(ろっこつ)の間のすきま(胸腔=きょうくう)=にたまって呼吸が苦しくなる病気で、同病院で春から9月までに3回の手術を受けた。胸腔にウミがたまる「膿胸(のうきょう)」を繰り返していたという。
このため、呼吸器外科の医師が、「ドレーン」と呼ばれる管を胸の表面から挿入してウミを出そうとしたところ、挿入口から血液があふれ出した。ドレーンの先端の針によって肺の下にある肝臓が傷つけられており、4時間後に出血によるショックで患者は死亡したという。死亡は、仙賀裕院長らに報告され、市幹部にも報告された。病院内の医療事故などを扱う安全管理委員会で、「重症の合併症」と判定され、警察に届ける必要はないと決めたという。
失血死を重症の合併症としたことについて、安全管理委員長の望月孝俊・副院長は「担当医からの聞き取りや、カルテを調べた。医療の世界では、今回のような出血は、一般的に行われる医療行為、手術を行った時に起こる合併症とされており、ミスではない。止血の措置もちゃんとやっていた。家族にも原因を説明し、警察に届けないでいいと言われた」と説明している。(松本健造)
記事からは警察の動きは見えませんが、病院の言い分が通ることを望みます。家族との間でトラブルになっているのならともかく、家族が問題にしていない事例まで警察がしゃしゃり出てくる必要はないのではないでしょうか。