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医療報道を斬る

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2009.04.10
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カテゴリ:医療
 前回引用した判決文から、入室から心室細動までを、時系列に沿ってまとめてみました。

1:15 入室し、硬膜外カテーテルを第1・2腰椎間から挿入
1:20 全身麻酔導入前 血圧は152/86
1:25 ベクロニウム4mg静注し、ラリンゲアルマスク挿入
    笑気・酸素吸入開始(それまでは純酸素と思われる)
    プロポフォール80mgを10分かけて静注
1:35 プロポフォール7.5mg/kg/時で開始
   ケタミン45mg静注後、0.75mg/kg/時で開始
   硬膜外に2%メピバカイン2ml注入 更に5分後18ml追加
1:37 血圧75/45 エチレフリン2mg静注 昇圧見られる
1:48 血圧80/50 エチレフリン2mg静注 昇圧見られる
1:55 血圧80/50 エチレフリン2mg静注 昇圧見られる 手術開始
2:00 血圧78/40
2:05 血圧90/42 エチレフリン10mg、メトキサミン10mg点滴静注開始
2:10 血圧112/55
2:15 血圧80/44まで下がる
2:18 パルスオキシメーターで脈を感知できず
2:20 頸動脈の拍動触れず
2:22 心室細動

 これは本当に麻酔科医が麻酔を担当したのでしょうか。そもそも実際にこのような麻酔だったのでしょうか。私の部下がこんな麻酔をしたら、怒鳴りつけると思います。

 下肢の手術に第1・2腰椎間から硬膜外カテーテルを入れるのは、少々上過ぎると思いますが、それはたいしたことではありません。でも、合計20mlの2%メピバカインを注入するのは多すぎます。全身麻酔併用ではなく、硬膜外単独での手術だとしても、私だったらそんなに使いません。また、上記の時系列での表記が正しいとすれば、既に血圧が下がっているのに18mlの追加をしたことになります。何も考えていないと言われても言い訳できないのではないでしょうか。

 また、1:25の全身麻酔導入の経過も異常です。ベクロニウムを投与すると呼吸が出来なくなります。意識があると、これは拷問です。通常静脈麻酔薬で眠らせてから投与するものです。でも、判決文では最初にベクロニウムを投与し、意識下で呼吸が出来ない状態でラリンゲアルマスクを入れ、静脈麻酔薬であるプロポフォールは10分間かけて80mgを投与したとされています。これでは眠りません。さすがにこれは事実と異なるのではないかと思います。10分間は10秒間の間違いではないかと言う気がするのですが、真実はどうでしょうか。

 私だったらラリンゲアルマスクを使うのであれば筋弛緩剤は使わず、自発呼吸を保ちます。筋弛緩剤を使って人工呼吸にするのであれば、最初から気管挿管をします。

 全身麻酔薬の投与量が多いことはその通りだと思います。硬膜外麻酔をたっぷりと効かせているのですから、痛み刺激はほとんど無いはずです。意識を無くすだけなら、それほどの麻酔深度は必要ないでしょう。それに、ケタミンを使う理由が分かりません。ケタミンは鎮痛作用の強い薬です。硬膜外麻酔をした上で、更に鎮痛作用を求める必要が、何処にあるのでしょうか。まあ、使って悪いわけではありませんが。それにしても、血圧の維持に難渋するような深麻酔をしながら、どうして麻酔を浅くする選択をしなかったのか理解不能です。

 ここまで読むと、私が最高裁の判決に賛成しているかのように思われるかも知れませんが、そうではありません。深麻酔であれば、昇圧剤で対処可能です。麻酔が深すぎるのに昇圧剤で血圧を維持するのは筋悪ですが、致命的ではないと思います。急激な血圧低下と心停止から見て、肺塞栓症がもっとも考えられると思っています。

 大腿骨頸部骨折も、人工骨頭置換術も、どちらも肺塞栓症を起こしやすいのですが、高裁判決では、以下のように肺塞栓症を否定しています。

被控訴人は、Aの死因について電撃型脂肪塞栓症の可能性が高いと主張し、B医師、C医師及びD医師(被控訴人病院整形外科部長)はこれに沿う供述をしている。午後4時5分 ころAの尿に血液が混じっており、膀胱内の血液分を生理的食塩水で洗浄した後も血尿が認められたこと及び肺から湿性ラ音が出始めたことなど、脂肪塞栓症の結果と矛盾しない 証拠は認められるものの、証拠によれば、1回目の心停止の後、午後4時46分から同48分にかけて撮影されたAのCT画像からも脂肪塞栓症の発症を断定できないこと及び脂 肪塞栓症が生じていれば、その発症に伴いETCO2(終末呼気二酸化炭素濃度)の値が低下するが、Aの血圧が急激に低下した午後2時15分においても、ETCO2の値は低 下しておらず正常値であることを考慮すると、1回目の心停止の原因は電撃型脂肪塞栓とは認められず、また、Aの死亡の原因が電撃型脂肪塞栓であると推認することはできない 。


 CTで断定できないことや、麻酔記録に2:15時点での呼気炭酸ガス分圧の低下がないことで、肺塞栓症を否定しているようです。でも、CTの性能によっては診断できないことはありますし、2:15時点ではそれまでの血圧低下と同じくらいの血圧が記録されていますので、この時点で肺塞栓症が完成したわけではなく、発症は直後と思われます。そして、その後は記録どころではない状態になっています。 

 おそらく死因は肺塞栓症。心筋梗塞などの突然死を来す他の疾患もあり得る。解剖されていないので確定は不能。でも、麻酔管理が悪かったことは否定できないので、そこを突かれて敗訴。こういった事例と私は思います。





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Last updated  2009.04.11 06:36:20
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