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医療報道を斬る

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2009.05.01
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カテゴリ:医療
 MRICの記事はいつも参考にさせて頂いていますが、たいてい転載が許可されているので、特に重要と思われる記事は、全文を引用して紹介させて頂くことにしています。今回も日本の医療を理解する上で重要と思われますので、ご紹介します。強調や文字色は私の選択です。




          ▽ 医療費削減政策を考える ▽
          第2回 危険にさらされる患者たち

          東京大学医科学研究所
         先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門
          上 昌広

         2009年5月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

【 Libby Zion事件:ニューヨークにおける患者安全対策の歴史的転換点 】

 1984年、ニューヨークの病院で、Libby Zionという18歳の女子大生が医療事故で亡くなりました。彼女はフェネルジンという抗うつ剤を飲んでいましたが、発熱、ふるえ、脱水などのために両親に連れられ、救急外来を受診しました。担当した医師達はウイルス症候群と考えましたが、熱と強い興奮状態で暴れていたため、複数の治療薬とともにメペリジンも処方しました。メペリジンは鎮痛薬で、鎮静作用もあります。当初は治療が効いたようでしたが、早朝6:30に心肺停止となり死亡しました。

 はっきりした事実がわからず議論となったのは、Libbyがフェネルジンを飲んでいることや不法な薬物(特にコカイン)を使用したことを、担当となった研修医に告げなかったのではないかという点と、研修医がこれらの薬の相互作用を知っていたか否かという点です。実は、フェネルジンは、コカインとも、メペリジンとも相互作用が起きるため、併用してはいけないとされています。

 父親のSidney Zion氏は元検察官で、ニューヨーク市の有名な新聞コラムニストでした。彼は、病院に対して民事訴訟を起こし、大陪審に刑事事件として起訴するか検討するよう働きかけました。1986年、大陪審は様々な議論の末、不起訴を決定したものの、薬のレファレンスシステム(現在は、薬剤師が夜間・休日も病棟ごとに交代制で常駐し、薬の量や併用などに関する医師からの質問に答える体制となっています)、コメディカルの人数、研修医の勤務時間などについて、病院体制に問題があると報告しました。Libbyが入院した際の担当医は、そ
のとき既に18時間以上、働きっぱなしの状態だったのです。1995年、民事訴訟では、コカインによる死亡という主張も、誤投薬による死亡という主張も受け入れられず、Libbyが医師にコカインや処方薬(フェネルジン)を飲んでいることを告げなかったことと、医師達がメペリジンを処方したことについて、 Shared Blameとなりました。解剖結果は急性肺炎で、検死局(MedicalExaminer)は、死因は両側の気管支肺炎であると報告しています。

 Libbyの死亡から5年後の1989年、ニューヨーク州は、患者の安全のために(医師の労働環境改善のためではありません)研修医の勤務時間を制限することを決めました。2億ドルの予算を投入し、患者安全のため、研修医の代わりに採血、点滴ルート確保、患者搬送などを行うコメディカルを増員し、医師の勤務時間を減らすことを病院に求めました。2001年には、この考え方が全米に受け入れられました(the Patient and Physician Safety and Protection Act)。

 しかし、このルールがあまり守られていないことが、長い間、議論されてきました。実は医師の勤務時間削減には、コメディカル増員のため経費が増える、夜中も同じ研修医が同じ患者を診なくなる、といった反対意見も多かったのですが、それでも「患者を危険にさらしている(Public Advocate for the City of NewYork)」「市民の命でルーレットゲームをしている(New York Daily News)」といった声のほうが強く、睡眠不足の医師に診療される患者の恐怖物語が相次いで報道されました。1999年、当直明けの医師が運転中に交通事故で亡くなる事件が起き、患者の安全のために医師の勤務時間短縮を求める声はさらに高まり、New York PostやNewsdayなどの紙面を飾りました。

 これは米国の話ですが、日本の状況はもっと深刻です。米国では若い研修医が問題になりましたが、日本では、すべての年齢層の医師が同じ問題を抱えています。40歳代では20歳代よりも注意力は落ちており、睡眠不足の状態での注意力は更に低下します。さらに驚くべきことに、25年前にLibbyの担当医が18時間以上起きていた状態で診療していたことが問題視されましたが、現在の日本では当直のたびに約36時間、睡眠をとらずに連続勤務することが常態化しています

 日本の病院は「雑用が多い」と揶揄されています。厚労省までもが「病院に勤務する若年・中堅層の医師を中心に極めて厳しい勤務環境に置かれているが、その要因の一つとして、医師でなくても対応可能な業務までも医師が行っている現状がある」と通知を出しています。厚労省に当事者意識のかけらも感じないのは毎度のことですが、この問題については、まだまだ国民的な議論が足りないと感じます。患者にとって、医師でなくてもできる業務を医師にさせるのがよいのか、コメディカルに任せるのがよいのか。医師を増員するのがよいか、コメディカルを増員するのがよいか、両方増員する必要があるのか。現状では、他に任せられる人がほとんどいないので、医師が残業しながらこなしているのです。

 日本の病院で、医師でなくてもできる業務を医師が行っているのは、医師をサポートするコメディカルの人数が極端に少ないからです。100床あたり病院従事者数は、日本では101人ですが、アメリカでは504人。これでは、同じ医療を提供する場とは言えません。政府による医療費削減政策によって、病院は必要な数の職員を雇用することができず、慢性的に人手不足の状態にあり、患者は危険な環境に置かれています。


【 看護師数・薬剤師数が多いほうが患者の安全性は高い 】

 看護師や薬剤師の人数が多いほうが、患者の安全性が高いことは世界の常識です。例えば、入院患者1日当たり看護師が1人増えるごとに患者の病院死亡率は、集中治療室で9%下がり、内科病棟で6%下がり、外科病棟で16%下がります。100床あたりの看護師数は、イギリス200人、アメリカ141人、イタリア136人、ドイツ75人(OECD Health Data 2007)。ところが日本は100床あたり34人、平均すると日本の看護師数は欧米のわずか約4分の1です。

 病院薬剤師についても、人数が多いほうが患者の安全性は高いことが知られています。病院薬剤師数と患者死亡率の相関関係には、統計学的有意差が示されているのです。ところが、100床当たり病院薬剤師数は、米国で9.77人に対し、日本は2.46人と、こちらも約4分の1です。

 従って、データの上では、日本の患者は、欧米の患者の4倍の危険にさらされている、あるいは、看護師・薬剤師の4倍の働きと注意力によって支えられていると言ってもよいかもしれません。


【 日本では「チーム医療」を行うだけのスタッフがいない 】

 何度か病院にかかった経験のある友人に、こう聞かれたことがあります。「米国では何人ものスタッフがチームで患者を診るのに、なぜ日本ではそうしないのですか?」答えは簡単です。「チーム医療」をしている(したい)のですが、米国ほどの人数がいないので、患者さんには「チーム」に見えないのです。

 前回ご紹介したとおり、愛知県がんセンター(473床)とテキサスのMDAnderson がんセンター(米国、456床)の100床あたり職員数は、それぞれ186人、3,125人と、実に17倍の違いがあります。1人のがん患者に対して、米国では17人の「チーム」が行う診療も、日本では1人の「チーム」で行わざるを得ません。日本の医療者は、1人で17人分の知識、技術、体力、注意力などを要求される環境に置かれているのです。たとえ17人分を要求されても、1人の人間には限界があります。このような環境で、危険にさらされているのは、患者なのです。

 米国で診療していた日本人医師は、「米国では看護師と薬剤師が投薬チェックをするため、薬の誤投与が患者にまで至った経験は幸運なことになかった。しかし日本では、互いに投薬チェックするような看護師や薬剤師は存在しないため、薬の誤投与は日常茶飯事だ」と言います。ほとんどの場合は、便秘の薬など生命に関わらない薬ですが、看護師・薬剤師などのコメディカルが手薄な環境に入院しているということが、患者にとってどれほど危険なことか、おわかりいただけるでしょうか。

【 医療事故の原因究明と安全対策のために 】

 医療事故を減らすには、実際に起こった医療事故の原因調査と再発予防が重要です。このため、厚労省は医療事故調査委員会(医療事故調)の設立を目指しています。このことは様々なメディアで報道されているため、ご存じの方が多いでしょう。私も、この問題に関心をもっていますが、この件ほど、厚労省が駄目だと感じたことはありません。厚労省が考えている案は、世界標準とはかけ離れ、役人の利権拡大が見え隠れします。

 「医療事故の真相を究明し、再発防止をはかる」という厚労省が掲げる目的には、私は心から賛同します。ところが、厚労省は解決すべき問題の優先順位を間違えています。患者の安全性向上を本当に考えるなら、真っ先にやるべきことは病院コメディカルの雇用人数を増やすことです。これは冒頭にご紹介した米国が長い議論の末、落ち着いた結論と同じです。

 また、厚労省が提案している医療事故調の制度設計は不適切です。現在、厚労省は、医療事故の厚労省への強制届け出、同委員会での真相究明(委員の人選は厚労省)、行政処分・刑事処分への転用を目指しています。しかしながら、こんなことをしてもわが国の医療は安全にはなりません。既に1人17人分の注意力を要求されている医療者に、「あなたの注意が足りなかった」「注意義務違反で処分する」といった責任追及システムを作ったところで、今まで以上に「注意する」ことは不可能です。むしろ、責任追及をおそれる医療者が隠蔽に走るという弊害ばかり大きくなる可能性が大です。そうなれば、医療事故の原因究明は遠ざかります。ちなみに、鉄道であれ、航空機であれ、事故調査と責任追及を連動させる国は、わが国以外に例を見ません。

 また、患者・遺族が真相を知る権利と行政の介入は分けて議論すべきです。医療事故調査の結果を患者・遺族に正直に伝えることを義務化し、刑事告発、民事訴訟、あるいは行政処分申請は彼らの判断に任されるという制度設計もありえます。むしろ、この制度の方が世界標準であり、厚労省ではなく、市民の権限を強化することが出来ます。


【 どうやって医療の安全コストを調達するか 】
 ところで、厚労省が決めた、患者の安全のための医療費の値段はいくらだと思われるでしょうか?「厚生労働省は、一体医療安全にいくらお金をつけているか。1患者1入院当たり500円ですよ。平均在院日数14日とすると1日37円」。これでは、患者の安全のために必要な病院スタッフの人件費には到底足りません。「(院内の事故調査を)やりますけど、もうちょっと考えていただいたほうが良いのではないか」と、埼玉医科大学総合医療センターの堤晴彦氏が、厚労省の第15回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」(平成20年10月31日)で述べています。



つづく






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Last updated  2009.05.01 12:32:15
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