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医療報道を斬る

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2009.12.25
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カテゴリ:医療
 比較的良質な医療を、誰でも安価に受けられる、世界でも希な国日本。その日本で、国民は医療費が高い、質が悪い、何時でも診て貰えないのはおかしいとクレームを言います。実際にクレームを言う人は少ないのかも知れませんが、役人や報道機関という声の大きいところではそのような発言が目立ちます。私自身は、日本の医療は一度崩壊するほか無いだろうとあきらめています。

 でも、崩壊を防ぐべく努力を続ける人を応援したい気持ちもあります。頑張って声を上げている人がいるなら、その声を伝えるお手伝いくらいはしましょう。と言うわけで、全文引用です。

▽ 「タブー」といえども医療費増加を叫ぶ ▽
  もはや限界の医療現場、これ以上の効率化は不可能

 武蔵浦和メディカルセンター
  ただともひろ胃腸科肛門科
     多田 智裕

2009年12月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


 「医は仁術」ということで、今まで医者が医療行為に関するお金の話をするのは、タブーに近い雰囲気がありました。でも医療の現場では、医療費の増額が実現されないと、とても立ち行かない状況に追い込まれています。
 12月9日、中医協(中央社会保険医療協議会)総会は「2010年度診療報酬改定へ向けた意見書を厚生労働省へ提出しない」という決定をしました。これは、私たち現場の医師からすると、驚くしかない決定です。
 健康保険支払い側は、「診療報酬の引き上げを行なう状況になく、限られた財源を効率的かつ効果的に配分するよう見直していくべき」と主張しています。
 一方、診療側は、「過去のマイナス改定を回復し、診療報酬の大幅な引き上げによる医療費全体の底上げを行うべき」と主張しています。
 両者の主張が全く噛みあわず、意見がまとまらなかったのです。
 中医協は、健康保険制度や診療報酬の改定などについて審議する厚生労働省の諮問機関です。諮問機関が意見をまとめられなかったことで、2010年度の診療報酬改定は政治的な決着に委ねられることになったと言ってよいでしょう。
医療は人件費のかたまり、コスト削減には限界がある
 民主党は選挙の際に、次のようなマニフェストを掲げていました。「累次の診療報酬マイナス改定が地域医療の崩壊に拍車をかけました。総医療費対 GDP(国内総生産)比を経済協力開発機構(OECD)加盟国平均まで今後引き上げていきます」──。このように大幅な医療費増額を打ち出し、選挙に勝利 したのです。
 民主党が政権を取ったにもかかわらず、なぜ、これほどまでに医療費増額が進まないのでしょうか。背景には、「世の中はデフレなんだから、医療だって価格改善の余地があるはずだ」という国民感情が根強いのかもしれません。
 しかし、皆さんに知っていただきたいのですが、医療は人件費のかたまりです。いわばバリバリのサービス業です。小売業のように売り上げに占める人 件費率が10%台などということは到底あり得ません。人件費率は実に60%に達します(施設によっては80%を超えます)。ですから、外国から格安の原材 料や製品を仕入れて、患者がびっくりするくらい値下げする、といった戦略はとれません。
 この50~60%という人件費率は、業種で言うと美容室やエステとほぼ同じになります。例えば、1000円カットは洗髪やひげ剃りなどのサービスを廃止して価格を下げることに成功しました。
 しかし医療ではサービスの廃止や簡略化ができません。「医療の効率化によって医療費増加分を捻出せよ」ということは、「医療に関わる人たちの人件費を下げろ」または「もっと1人当たりの労働量を増やせ」と言っているのとほぼ同じことになります。
 つまり、「サービスのレベルを下げない」という前提に立つならば、医療費カットは医療従事者(医者だけでなく看護師、医療事務、看護助手などの「コメディカルスタッフ」も含む)の給料削減、または労働環境改悪に直結するということです。
人件費が安い海外に移転するしか手はない?
 ただでさえ、医師は過労死基準を超える過重労働にあえいでいます。これ以上人的資源の効率化を行なうことは、現実的には不可能でしょう。コメディカルスタッフの業務も似たような状況です。
 経済評論家の大前研一さんは著書『最強国家ニッポンの設計図』(小学館http://www.amazon.co.jp/gp/product/4093897166/)の中で、「今後の日本の高齢者問題を国内で解決するのは不可能であり、オーストラリアやフィリピン、タイなどで高齢者タウンや介護タウンを作るしかない」と喝破しています。
 要するに、他の産業と同じように人件費の安い海外に移転させれば、コストを下げてよい医療が提供できますよということなのでしょう。でも、逆に言うと、現実的に医療費を抑制しつつサービスも維持する方策は、いくら考えてもこれくらいしかないですよ、ということなのです。
 (ただし、高齢になったり介護が必要になってから海外に移住することをみんなが納得するのかどうか、そして、海外旅行に出かけないと親族に会えなくなってしまうという状況がみんなに受け入れられるのか、私には判断できません。)
すでに現場は限界を超えている
 以前、このコラムでも書きましたが、現在の日本の医療費は、医療の水準に対して、価格が世界で最も低い水準にあります。(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/1337も参照ください)
 例えば、私が行なっている大腸内視鏡検査の代金は、日本では1万5500円です。ところが、同じ検査をアメリカで受けると100万円を超える施設も珍しくありません。良心的なところでも30万円くらいです。
 テレビで、したり顔で「混合診療は解禁して当然」と解説している経済評論を目にします。混合診療では、健康保険の範囲内の診療費は保険で賄い、範囲外の診療費は、患者が医者に支払うことになります。
 この経済評論家は、急増している大腸がんの予防的処置ができる大腸内視鏡検査が、1回30万円以上にまで高騰してもよいと本気で思っているのでしょうか?
 「医療費の安いタイなどの国に検査や処置を受けにいくメディカルツーリズムが流行っている」と紹介する記事もあります。ちなみに、大腸内視鏡検査 はタイで受けたとしても7万円くらいかかります。日本で受けた方がはるかに安いんですけど・・・と、私はツッコミを入れたくなります。
 もちろん、医療費は安い方がいいのが当たり前です。それでも、ここまで安いのにこれ以上効率化云々ということを言われても、「すでに現場は限界を超えている」というのが、私を含めた医療従事者の正直な実感です。
せめて世界の平均まで引き上げを
 医療従事者は、別に7000万円のボーナスが欲しいわけでも、200億円の退職金が欲しいわけでも決してありません。誰もが、安い値段で高水準の医療を提供したいと思っています。
 診療側が求めているのは、「医療行為に対する正当な評価と報酬」です。ただそれだけなのです。今、上がっている声は 「医療費があまりにも安すぎて、今の水準をとても維持できません」という悲鳴なのです。
 医療崩壊を食い止めるために、何よりも必要なものはマンパワーです。このままでは医療サービスの提供に最低限必要な人手を維持できないところまで来ています。
 日本の医療費は世界最低水準です。「せめてOECD加盟諸国の平均にまで上げてほしい」という要求(最終的には今と比べて50%くらいの増額になると思われます)は、まごうことなき正当な要求であると、私は個人的に考えています。
 冒頭の中医協総会後、診療側の辺見公雄委員は、会見で「(この内容で同意しては)全国で一生懸命働いている仲間を裏切ることになる」と語りました。現場に立つ者からすると、この一言だけで涙が出てしまうような発言です。
 感情論は脇に置いておくとしても、これまでのように、「上げるべきという意見もあれば、上げるべきではないという意見もある」という「両論併記」で、あいまいなまま流せる状況にないことだけは、皆さんに分かってほしいと思います。
 医療崩壊を阻止するためにも、そして、250万人の医療従事者たちが希望を持って働けるようにするためにも、最後の政治決着では、可能な限りの医療費増額が決定されることを期待しています。
 





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Last updated  2009.12.25 13:08:00
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