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医療報道を斬る

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2010.01.11
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カテゴリ:暮らし
 私は以前から、故意や故意に近い重大な過失を除いて、過失を刑事事件とすることに反対してきました。故意に行うことであれば罰によって抑止力はあるでしょうが、出来れば本人も避けようと思っている過失に罰を与えても抑止力はないからです。かえって罰を逃れるために、真相究明と再発防止が阻害されるでしょう。

 医療に限らず、事故の調査は再発防止に力点が置かれるべきで、そのためには真相究明が何よりも大切です。それを可能にするためには、正確な報告が不可欠で、報告者の不利益を招かない体制が必要です。調査機関は司法から独立し、報告者を守らなければなりません。リスクマネージメントは海外から入ってきた概念ですから、既に欧米ではそのような動きがあるものと思っていました。

 以前からネット上では「業務上過失致死で警察が介入するのは日本くらいのものだ」と言う人もいました。たとえばここから引用してみます。

 
この「業務上過失致死」という言葉は最近の医療事故に関わった医師を拘束するのに都合の良い口実として頻繁に使われるようになったが、「業務上過失致死」の拡大解釈は医療を滅ぼすことになりかねない。
 医療事故は、その問題をきちんと扱えるだけの専門知識を持った人たちで組織された第3者機関によって落ち度の有無を客観的に検討されるべきであって、医学に暗い警察権力が踏み込むべきではないし、そのような介入がまかりとおっている国は日本だけである。

 「やはりそうなのか」と思う一方で「本当かな」と思う気持ちもありました。検索しても、真偽のほどは分かりませんでした。

 昨日たまたま図書館で「ヒューマンエラーは裁けるか」シドニー・デッカー著という本を見つけ、借りてきました。読んでみたら、上記の情報はやはり言いすぎで、欧米にも業務上過失致死に当たる罪状はあり、医療や航空機の事故が裁かれていました。誰も被害者の居ない単なるインシデントですら有罪判決が出て、責任者である機長を自死に追い込んでいる事例もありました。

 それでも報告者を守るという概念はある程度広まっていて、ノルウェイでは報告内容を証拠として採用できないようですし、アメリカの多くの州では報告内容の開示には法的手続きが必要とのことです。

 この本の著者や私たちの希望する(再発防止に重点を置いた)調査機関の実現が困難なのは、やはり処罰感情なのでしょう。被害者が強い処罰感情を持つのは理解できますが、どうも関わりのない人々にも強い処罰感情がありそうです。非難の論調のメディアと、その背後の多くの人々、彼らにも極めて強い処罰感情を感じることがしばしばあります。

 一方で裁判は真実を明らかに出来るようなシステムにはほど遠く、その結果、ミスの連鎖のたったひとつが罰せられ、危険なシステムは放置され、ミスの連鎖を防げたはずの関係者への教訓は生かされないまま、またいつか同じ事が起こるのでしょう。

 そうなったところで、また誰かを罰すればそれで気が済むというわけです。





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Last updated  2010.01.11 10:42:47
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