机上の空論の鑑定で涙を流した医師も多いことと思いますが、実情を反映した鑑定さえしてもらえれば裁判官もきちんと判断してくれるようです。まずは
判決前の記事を全文引用します。
医療事故:専門外の診療で急死 当直医の責任どう判断 あす控訴審判決--福岡高裁
毎日jp
胸痛を訴えた男性が大分県宇佐市の病院で当直医の診断を受けた後に急死した医療事故を巡り、1審大分地裁中津支部が病院の過失を認め遺族に約5100万円を賠償するよう命じた訴訟の控訴審判決が26日、福岡高裁(広田民生裁判長)で言い渡される。病院側は控訴審で「地方の病院は当直医の確保がやっと。夜間・休日の救急医療を担う当直医に専門医と同レベルの注意義務を課せば、地域医療の崩壊が加速する」と主張しており、高裁の判断が注目される。【岸達也、高芝菜穂子】
1審判決によると05年11月18日夕、胸部に痛みを訴えた男性会社員(当時42歳)が救急病院を受診。病院は当直態勢で、内科の医師が心電図などを基に逆流性食道炎の疑いと診断し、胃薬を処方した。男性は病院を出た約10分後に倒れ、別の病院に搬送されたが、急性心筋梗塞(こうそく)で死亡した。内科医は急性心筋梗塞の治療経験がなかったという。
心電図の自動解析装置は「異常なし」と判定していたが、1審は、心電図検査が急性心筋梗塞の所見を示していたと認定。循環器の専門医への相談や血液検査、超音波検査をすべきだったとして病院側の過失を認めた。病院側は判決を不服として控訴した。
控訴審で病院側は循環器病の専門医、木村剛・京都大教授の鑑定書を提出。木村教授は当時発症していたとみられる心臓疾患と逆流性食道炎などの症状が酷似しており「専門外の当直医に、専門医でなければ気づかない軽微な心電図の変化などから診断を要求するのは無理」と指摘した。病院側の弁護士は「高裁の判断が1審同様なら、専門医がそろわない救急病院は難しい患者を引き受けづらくなる」と話している。
一方、遺族側の弁護士は「事故が起きた病院には循環器の医師もおり、適切な措置を講じていれば救命できた」としている。
自動解析装置が当てにならないこともあるのはその通りですが、専門外の医師の判断だって、専門家から見たら当てになりません。当該病院に循環器の医師がいたことは事実でしょうが、24時間いつでも配備できるほどいたはずはありません。
そもそも日本の救急医療は、宿直扱いの当直医によって支えられています。毎日いろいろな科の医師が交代で行い、徹夜で働いても、宿直扱いなので次の日も通常業務です。休日や夜間に急病になったからといって、専門医に診て貰える診療体制ではないのです。その代わり、安上がりでコンビニ並みのアクセスが可能となっています。よその国だって、初診で専門医に診て貰えることはないでしょう。
専門医にいつでも診てもらえるのは、昔風に言えば、王侯貴族だけです。国民全部にそれだけの医療を保証するなんて事は不可能です。高裁でも病院敗訴となれば、専門外は診ないという風潮が加速するでしょう。救急の現場に各科の専門医をそろえることは不可能ですから、要するに救急医療が崩壊すると言うことです。
そして判決は、以下の通りです。木村剛教授の鑑定がものを言ったのでしょう。
診断めぐり遺族が逆転敗訴 「当直医に専門判断は酷」
10/11/29 記事:共同通信社
大分県宇佐市の佐藤第一病院を受診した男性会社員=当時(42)=が帰宅途中に急性心筋梗塞(こうそく)で急死したのは診断ミスが原因として、遺族が同病院を経営する医療法人明徳会(宇佐市)に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は26日、約5100万円の支払いを命じた一審大分地裁中津支部判決を取り消し、請求を棄却した。
広田民生(ひろた・たみお)裁判長は判決理由で、男性を診断した当直医の専門が一般内科で、急性心筋梗塞の治療に携わった経験がないと指摘。「循環器専門医と同等の判断を要求するのは酷で、心電図で急性心筋梗塞の疑いを見逃したことはやむを得ない」と遺族の主張を退けた。
一審判決は「心電図が急性心筋梗塞の所見を示しており、当直医が見落とした」として、病院側の過失を認めていた。
判決によると、男性は2005年11月18日夕、胸の痛みを訴えて佐藤第一病院を受診。当直医が心電図検査で逆流性食道炎の疑いがあると診断し、男性を帰らせた。男性は帰宅中に倒れ、別の病院に搬送されたが、急性心筋梗塞で死亡した。