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何の後ろ盾もない個人が組織を相手に戦うのは大変なことです。理不尽な扱いを受けたとしても、その証拠を集めることも大変ですし、資金にも限りがあります。たいていは泣き寝入りするほか無いのですが、たとえかなわぬまでも、一矢を報いたいと戦いに臨む人はいます。一寸の虫にも五分の魂と言うわけです。個人が組織を相手に無謀とも思える訴訟を起こしたとき、私はこのような構図を浮かべていました。ついこの間までは。
腎不全のため、血液透析を必要としているある患者(患者X)が いました。患者Xはある医院(A医院)で透析を受けていましたが、特定の女性看護師に執着し、ほかの看護師の関与を拒否するようになりました。当然のことながらトラブルとなり、A医院の看護師全員が関わりを拒否するようになりました。こうしてA医院での透析ができなくなったのですが、透析を受けなければ患者Xは死んでしまいます。紹介元の病院(B病院)の腎臓専門医(医師Y)は、次の施設を探しながら、それまでの透析をB病院で続けました。そして何とか次の医院(C医院)を見つけて患者Xの透析を依頼しました。ただし、書面上はA医院からC医院への紹介です。 ところが、医療の世界は狭いもので、A医院での悪評はすぐにC医院に伝わりました。実は看護師同士で交流があったのです。悪評を知ったC医院は診療を断りました。仕方なく、医師Yはさらに次の医院を探して、結局その医院が患者Xを受け入れました。こうして患者Xは透析を続けられることとなり、命をつなぐことができました。医師Yは患者Xの命の恩人として感謝されこそすれ、恨まれる筋合いは全くないはずです。 ところが患者Xは何を勘違いしたのか、C医院で断られたのは医師Yが告げ口をしたからだと思いこみました。そこで、B病院に苦情を申し入れました。医師Yの誹謗中傷によって透析を妨害されたというわけです。同じ事を警察にも相談し、A医院から医師Yに注意するように(警察から)指導して貰った(患者X談)とのことです。 悪いことに、昨今は苦情に対してはとりあえず下手に出る風潮となっています。また、患者Xは自分のことだと分からないように医師Yに注意をするようB病院に対して求めていましたが、そんなことは不可能なので、事務方が当たり障りのない謝罪もどきの返事を出したようです。その対応に気が大きくなったのか、患者Xはなんと医師Yを被告として慰謝料請求の訴訟を起こしたのです。 当然のことながらこんな訴訟で原告に勝ち目はありません。結局は原告敗訴で結審し、過日判決が確定しました。患者Xは弁護士費用と裁判の費用でかなりの出費があったはずです。 (請求は少額ですが、裁判の進め方を見ていると少額訴訟制度の利用ではなさそう) 発端は自分の不始末で、明らかに自業自得です。でも、その自覚はみじんもありません。本人は当然自分が勝つものと思っていたようです。満額は無理でも、四分の一くらいは取れると思っていた節があります。訴訟前の調停では、実際に裁判所はそれくらいの額の和解勧告を出していました。世の中は弱者とされる者には甘くできていて、患者Xも、それに期待したのでしょう。判決では証拠による事実認定に徹してくれたので、問題なく原告の請求は棄却されました。 医師Yの代理人は弁護士がつとめ、その費用はB病院が負担しました。諸経費を含む費用は慰謝料の請求額を超えていたものと思われますが、それでも不当な請求を蹴った行為は正しかったと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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