岡崎市の子宮外妊娠による妊婦死亡に関する判決について、以前
書きました。この事例について、地裁の資料を閲覧に行って内容をエントリに上げたブログがあります。
産科医療のこれからと言うブログです。
亡くなった方やご遺族には本当にお悔やみを申し上げますが、リンク先を読む限り、誰の責任というわけではないと思います。
リンク先から「事実経過」を引用します。
事実経過:
初診は平成19年8月
その時の主訴は不妊だが、他院への紹介状取りに来ず
平成19年10月3日
12:40 外来診察
0経妊0経産 最終月経8/23→ 5週6日相当
基礎体温表はなし。
カルテ記載によると、
・子宮内に胎嚢らしきものあるがpseudo GSか?
・右卵管周囲にあやしいmassあり
・左卵巣正常
・ダグラス窩にエコーフリースペース少量あり
(1cm程度、右附属器周囲にはなし)
・出血や腹痛なし
子宮外妊娠の可能性と腹痛や出血時の説明あり。
「子宮外妊娠が否定できないので、
出血や腹痛等があればいつでも早めの受診を」
と説明している。
流産の可能性のみカルテ記載にないが、
・正常妊娠の可能性(排卵が遅れた)
・流産の可能性
・子宮外妊娠の可能性と対処
についてこの時点で説明したものと裁判所は認定している。
尿中hCGを測定に出したが、
3-4時間かかるために帰宅をさせた。
「何かあれば電話連絡を入れる」とその際説明している。
その後、医師はほぼ休みなく外来を行い、
検査結果が異常でも知らせてくれるシステムがないため
時々、患者さんのカルテを見ながら診察をすすめていた。
16:03 尿中hCG 25290mIU/mlの記載
(16:30まで外来続いていた)
この時点で子宮外妊娠の可能性を念頭においた。
その時双胎児間輸血症候群の搬送あり、
他の産婦人科医師はオペ中。
患者さんと連絡を取ることを考えたが、
もし来院してもらっても産婦人科で
患者対応できる医師がいないために、
この搬送患者さんにかかりきりになってしまった。
そのままオペ段取りして終わった時点で10時過ぎ。
「電話をかけるには非常識な時間である上に、
今まで腹痛の連絡もないから明日連絡を入れよう」
と考え、 この日は連絡を入れなかった。
10月4日
9:30頃 本人から「腹痛」の電話が入る。
外来看護主任が電話に対応。
カルテコピーはみたものの、hCG値は見なかったと。
患 「腹痛がするんですが」
Ns 「症状が出て、強くなるようなら受診を」
患 「昨日受診したばかりでよくわからなかったから、
今日受診しても同じですよね」
Ns 「(カルテの子宮外妊娠の記載目に入る?)
子宮外妊娠であれば手術する場合もあるし
早めに受診してください」
患 「もう少し様子を見ます」
Ns 「何かあったら電話してください」
その頃、担当医は外来クラークに患者さんに電話を
いれて来院してもらうように指示をしていた。
ちょうど電話があったころで、
「それなら先ほど電話があった人です」
と担当医に伝えた。
担当医はもう一度電話、すぐ受診するよう指示。
外来クラークは電話をし、通じた。
「11時が外来受付締切りなので、
それまでに来院できますか?」
「大丈夫です」との返事あり。
(この頃の時間は9時40分以降10時くらい?)
前後して患者さんは実母と電話で話している。
その時間が10時頃で、
「病院にいく話は聞かなかった。
痛みはあるけれど車なら会社にいける」
と話をしている。
11時になっても患者は来院せず、
担当医は何度かクラークさんに尋ねている。
12時になっても来院せず、
12:20(この時間も正確ではない)-13:00に
携帯や自宅番号に5回以上電話を
入れたがつながらなかった。
(あとの状況を見るとシャワーで聞こえなかったのかも)
13:00頃 患者さん自宅電話より電話。
患 「お腹が痛い 動けない」
ク 「救急車を呼んでください!」
患 「救急車を自分で呼ぶ自信がない」
ク 「この電話で119かけてください!」
患 「やってみます」
13:26 救急車の入電も来院もなく
外来主任助産師が手が空いたので救急隊要請。
13:40 救急隊現地到着。心肺停止状態。
シャワーを浴びたか着替えの途中で全裸で倒れていた。
14:05 病院着。心肺停止状態。
14:40 蘇生し心拍再開。
16:19 右卵管切除手術(病理結果;右間質部妊娠)
10月5日 17:03 死亡確認。
前にも書きましたが、当時のうちの病院では一週間後に検査結果を聞きに来るよう指示するのみで、病院から連絡するようなことはしていません。それと比べたら遙かに手厚い対応だと思うのですが、死亡という結果を見ると、どうしても誰かの責任にしたくなるのでしょう。判決は病院と医師の過失を認め、6700万円の賠償でした。でも、やはりこれは後知恵バイアスで、誤りです。
賠償責任が病院と医師の両者にあるとの判決でもあったようで、これにはびっくりしました。よほど医師に悪質なミスがなければ、医師個人の責任は問われないと思っていたからです。私から見たら、この事例の医師にミスがあるようには見えません。恐ろしいことです。
錯覚の科学 を読むと、他人に要求できると思われる注意義務が、実際には無理な注文であることがよく分かるでしょう。法律家必読の書だと思います。