我々臨床医というのは薬剤の添付文書よりは専門家の合意事項を優先するものです。添付文書で禁忌となっていても普通に使用される場合は結構あります。たとえば喘息患者に対するフェンタニルの使用などがあります。ハロゲン化麻酔薬とキシロカインEの併用も以前は禁忌でした。今では慎重投与となっていますが、禁忌の時代から普通に使用されていました。
専門家の合意事項は(少なくとも建前上は)科学的見地を重視しますが、添付文書は会社の法的責任の回避なども考慮されているので、実際の医療の現場では不都合なことも多いのです。
東京女子医大で小児の人工呼吸の際の鎮静にプロポフォールが使われていた件で、禁止薬であると(あたかも法律で禁止されているかのごとく)強調する論調がありますが、単に添付文書で禁忌とされているだけです。
添付文書を盾に使用禁止薬と言われるのは、多くの臨床医にとって首肯しがたいのでは無いでしょうか。女子医の問題は添付文書で禁止されているからでは無く、専門家の合意事項から外れているから非難されるべきなのでしょう。
東京女子医大:「禁止薬使用、重大問題」…小児12人死亡
毎日新聞 2014年06月12日 23時46分
東京女子医大病院(東京都新宿区)で、鎮静剤プロポフォールを投与された小児患者12人が死亡していたことが新たに判明した。同大の笠貫宏学長ら教授グループ10人は12日記者会見し、同病院で禁止薬が恒常的に使われていたことを「重大な問題」と指摘。病院の信頼を失墜させた責任を問うとして吉岡俊正理事長らに辞任を要求していることを明らかにした。
◇理事長に辞任要求
教授グループは、吉岡理事長の大学運営に批判的で、この日、吉岡理事長とは別に会見を行った。「12人が死亡した事実は(理事長の会見後に)初めて知った」としている。
プロポフォールは集中治療室で人工呼吸中の小児に使用が禁じられている。同病院ではこの条件で投与された2歳男児が死亡し、他に63人の小児が投与されていたことが判明していた。12日、吉岡理事長は会見で、63人のうち12人は投与から数日〜3年の間に死亡していたことを公表。死因について「プロポフォールが原因とは考えていない」としているが、外部の専門家を加えた調査チームを設置する。最初に死亡が発覚した2歳男児の死亡については投与との因果関係を認めた。
プロポフォールなどの禁止薬は通常、代わりに使える薬がない場合、病院内の倫理委員会などの了承を得たうえで、本人や家族の同意を得て使用する。厚生労働省の担当者は「法的に使用が禁止されているわけではないが、その薬しかないという合理的な理由があるときだけ例外的に使用するもの」と話す。
教授グループは会見で「社会的信頼を回復するには新たな組織で抜本的な改革が必要だ」として吉岡理事長や大学理事、評議員らの総退陣を求めていることを明らかにした。【桐野耕一】