ヒゲよさらば!!!
“the Establishment”(ジ・エスタブリッシュメント)という言葉をご存じだろうか?私は今回の一連のプロ野球再編問題に関して、この言葉の持つ意味を改めて再認識させられたクチである。この語の持つ意味をよく考えると、一連の問題の持つ意味、ファンや関係者の社会的立場が非常によくわかるように思われる。 “the Establishment”日本語訳すると「支配階級」である。「支配階級」とは何か?。「支配階級」とは単なる経営者・政治家etcの事ではない。言葉では言い表しにくいが、政治・経済etcの根幹に関わる、もっとスケールの大きい「支配集団」のことである。 例えば、ルディー・アルファイド氏をご存じであろうか?。この名前ににご記憶のない方の多かろう。だが、こう言えばお分かりの方も多いだろう。パリで事故死された故ダイアナ英皇太子妃と車に同乗されていた恋人の男性である。アルファイド一族はフランス・パリの超高級ホテル「ホテルリッツ」やイギリスの高級百貨店「ハロッズ」を経営するヨーロッパを代表する大富豪なのである。 このアルファイド一族だが、稲本潤一が昨期まで所属していたプレミアリーグの「フルハム」のオーナーなのである。 この他にもサッカー球団のオーナーといえば、イタリア・セリエAの強豪ACミランのオーナーはイタリアのTV王・大実業家ベルルスコーニ現イタリア首相であり、ミランのライバルチームであるユベントスのオーナーは自動車メーカーフィアットの創業者オーナーであるアニエリ一族(ユベントスの親会社であるフィアットにはリビアの国家元首カダフィー大佐が資本参加し問題になった。カダフィー氏は大サッカーファンでフィアットの経営参加はユベントスが目的であったとされる。F1のフェラリー社もフィアットの関連企業である)。最近の所では、プレミアリーグの強豪チェルシーに経営参加したロシアの石油王アブラモビッチ氏があげられよう。 つまり、サッカーオーナーには、各国王族にも連なる「国賓級」の人物が名を連ねる、世界でも最高級の「社交界」なのである。サッカーの普及率が低いアメリカにおいては、これに相当するのが、4大プロスポーツオーナー。中でも野球チームオーナーというのはその中でも別格の存在なのだ(記憶に間違いがなければ、ブッシュ現米大統領はかつてテキサスレンジャーズの経営に参加していたと思います…)。 野球チームオーナーとは、「単なるビジネスとしての球団経営者」ではないのだ。日本を代表した「私設外交官」として、各国の要人との間で日本の立場を代表する可能性が充分あるのだ。 このような状況を含み置いて考えると渡辺恒雄氏の「俺の知らない人物」や「たかが選手」という発言は違った評価が出来るのではないか?。無論、私はプラスの評価をするわけではない。オーナーというのは、一般庶民とは「違ったレベルの階級にいるもの」という「ある種の階級意識のあらわれ」なのである。だからこそ、読売新聞という世界でも有数の大会社の最高経営幹部である渡辺恒雄氏が、「一子会社である読売巨人軍オーナー職」にこだわったのである。読売新聞は「日本ローカル」であり読売ジャイアンツは「ワールドワイド」なのである。 スポーツビジネスのオーナーとは「国賓級」の名誉を伴う職なのである。 イタリアのベルルスコーニ首相には、普通、簡単には面会できないだろう。しかし、どこかのサッカーチームのオーナーが「ミラン所属のブラジル代表カカの移籍について協議したい」などとアポを取れば、驚くほど簡単に面会できてしまうのである。 こう考えると、公的な場に相変わらず「Tシャツ」で登場する堀江氏はどう評価されるべきであろうか?。確かに彼には「金はある」。しかし、金があっても、我々は「現在の」彼に「我が国の運命」を託すことが出来るであろうか?。結局の所はここなのである。この「球団経営者の重み」をわかっていたからこそ、楽天の三木谷氏は「ひげを剃った」のだ。 サッカーチームオーナーとしてヨーロッパの上流階級との関係性を持ち、今度は野球の球団オーナーとしてアメリカのパワーエリートとの関係性を加える。常識人ならば、無精ひげなどは生やしていられないだろう。 堀江氏の最近の軟化?は参入合戦の劣勢?によるものか、自分の行おうとしていることの重大さに気付いたからだろうか?。 球団ビジネスには税制上の優遇措置が存在している。しかしこれは上記のような日本の国益にも絡む大きな事実が横たわっているからである。だからどんなに赤字を出そうとも、球団経営に参画するという事には一定程度のメリットが存在するのである。単なるビジネスではないのである。日本の目線は、ヨーロッパではなくアメリカに向いている。従って、Jリーグよりプロ野球の方が「政治銘柄」なのである(Jリーグに税制上の特権が認められないのもこの辺りに原因はあろう)。 よく球界再編問題を「旧勢力」対「新勢力(IT業界)」のようなとらえ方をする面もある。だが、問題はもっと複雑なのだ。「旧勢力」と言うより「現支配勢力」なのである。またIT業界関係者全てが「新勢力」とは言えないのだ。 新しい業界であるIT産業出身である楽天三木谷氏は、神戸の大学教授を父に持ち、一橋大学を卒業後、日本興業銀行に入社、ハーバードビジネススクールでMBAを修得し帰国といった、純然たるエリートコースを歩んできた人である。一方の堀江氏は、東大中退後、起業した青年実業家である。どちらが、現支配階級から見て、自らの仲間入りをするにふさわしく見えるのだろうか?。 「どこの馬の骨かもわからない」堀江氏を、“the Establishment”に加えるわけにはいかない。これが日本の支配階級の選んだ結論なのである。日本の政・官・財界を含んだ勢力が、堀江氏の参入を拒絶した結果が「楽天野球団の経営諮問委員会」の陣容なのである。経済界の大物達が一致団結して、堀江氏の排除に向かったのである。このような政・官・財界の動向を知ったからこそ、ライブドアにラブコールを送っていた宮城県の浅野知事が「16日に三木谷氏からの電話があった」として、「ライブドア寄り」から、急遽「中立?」の立場に変わったのではないだろうか?。 プロ野球再編問題で。あれほど選手会寄りの報道を展開していたメディア各社だが、この度の「仙台戦争」についての報道が及び腰なのも、これが原因であると考える。 劣勢にあるライブドアに残された起死回生の一手は「世論へのはたらきかけ」しかないだろう。 オリックスの宮内義彦氏は、政府の規制緩和委員会委員長の職にあり、日本の構造改革に粉骨砕身している。しかし、球界への堀江氏の参入の方が、実は「日本の真の構造改革・規制緩和」につながるように見えるのだ。 我々は一体どちらを選ぶのか?。どちらを選んだ方がいいのか?。どちらも選ばずに人任せにしたら結果はどうなるのだろうか?。 非常に悩ましい問題である。