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バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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カテゴリ:映画/エンタメ
 いまさら、と言うべきか、いや今だからこそ、『アレキサンダー』観ました。だって、気になるでしょ、毎日古代ローマ人の話し読んでたら。ユリウス・カエサルが脾肉の嘆を投げかけたアイコンでもあるアレキサンダー大王。
 実は食わず嫌いとチャンスを逸したことが重なって、今日までこの作品と縁がなかったのです。
 『トロイ』か、『アレキサンダー』か。本来はほぼ時期を同じくして公開されたこの二作を比較するのが本流なのでしょうけど、私はなぜかどちらかを観ればイイと思い込んでしまっていて。なにしろどちらの話も、当時の私にとってはあまりに“古いテーマ”だったので…。
 そして『アレキサンダー』を『トロイ』の亜流(というか、ブームに乗った二番煎じ)のように受け取ってたんですね、あの頃。それと、昔ほどオリバー・ストーン監督が好きでなくなっていた(飽きていた)というのもありました。で、ま、時間があれば…と思っているうちに、忙しさにかまけて結局公開中を逃し、その後DVD化されても何か食指が動かなかった。
 ホント、ごめんなさい。結果的には面白かったです。あの時なぁ、前評判もイマイチだったんだよなぁ。アレキサンダーにコリン・ファレル?なんつって。でも、なかなか似合ってました。それに前評判の悪さの原因もなんとなく、これまたいまさら見えたというか。
 要は、やっぱりオリバー・ストーン流が強すぎるんですよね。彼の主義とかテイストというのは、テーマ選びから着眼点、解釈から映像まで随所にわたって顔を出すわけですが、どうしても映画だから映像におけるストーン流ばかりが強く印象に残ってしまう。それが結果的に、テーマ自体の深みを後方に押しやる形になり、ストーリーとしてなんとなく物足りなさが残ってしまうんです。同じことがこの作品にも言えるわけで、深遠なテーマ、壮大なスケールをスタート地点からして有しているこの作品が、物量に任せたようなタッチになってしまっている。もしかしたら、狙って、かもしれませんけど。いずれにしても、物量で押すだけではもったいない話なんですよ、コレ。
 キャスティングの妙といいますか、瓢箪から独楽、とでも言いますか。ところが、この大味な作りに、コリン・ファレルのアレキサンダーが上手く噛みあって、大遠征という偉業をシンプルに際立たせることに成功してしまっている。アレキサンダー大王にまつわる伝説や細々としたエピソード、陰謀や秘話など、本来この映画で知りたいことが案外伝わってこない代わりに、「誰もが知ってるアレキサンダー大王」のブランド力はかえって一層強くなったような、そんな感じです。
 そうして、別にそれでいいじゃないか、と思えたら、この映画が面白くなってしまったのです。
 私の父は、幼少時は日本の軍記者などと一緒に、ギリシャ・ローマ神話を読んで育った人で、誰よりもアレキサンダー大王を尊敬し、彼に憧れてきた人です。だからこそ、文武両道であることを目指し、学問のみならず、あらゆるスポーツに通じ、ルネッサンス芸術を通じて古代復興へと傾倒して絵画や彫塑まで嗜み、いまなお弛まず肉体を鍛えることを怠らない。ちょっと単純だけど、ひたむきな父らしい一面。そんな父が幼い頃から知っていた、シンプルに偉大な英雄。それが、結果的にこの映画で描かれたアレキサンダー大王なのかな、と。それでいいのだ!!
 でも肝心の父の評。もちろん父は公開時に観たワケですが、実は感想はイマイチ。なるほど、ナイーヴなアレキサンダー大王はお好みでなかった様子。アレキサンダー大王の苦悩は、この作品にはいらなかったのかな、父にとって。私は先ほど大掴みで「シンプルに偉大な英雄。それが、結果的にこの映画で描かれたアレキサンダー大王」と書きましたが、ナイーヴなアレキサンダーを描きたかったのはストーン監督の想いであって、それが伝わってこなかった(伝わるけど、不十分だった)のは私の見方によるのでしょうけれど、少なくとも父はこの作品には、シンプルではなく、ナイーヴなアレキサンダーを見出してしまい、逆に私は、父向けのシンプルなアレキサンダー像を見ていたという…。ホント、主観ってアテにならないですね。
 今じゃ、「主人公のパーソナリティを描けなきゃ、映画としては古い」みたいな、“パーソナリティ幻想”ってありますけど、私はあんまりこだわらないですね。昔の活劇なんか、キャラクター造形はあっても、苦悩とか葛藤とか、そういうの全然ないけど、それはそれでちゃんと面白いですもん。そういう意味では、この映画は『バラバ』とか『サムソンとデリラ』とか、『十戒』などの古き佳きハリウッドのスペクタクル映画の系譜だったのかなぁ。
 出演者に関して。アンジェリーナ・ジョリー、怖すぎる。「私のアキレス」って台詞、言っちゃってるもんなぁ、人の作品で。えぇ、アキレス=ブラピですけど。ヴァル・キルマー…も怖い。けど巧いなぁ、やっぱり。イマイチいい作品にめぐり合えないのが惜しい方です。ファンでありますジョナサン・リース=マイヤーズ、ちょい役。あの酷薄な雰囲気がイインだよなぁ。こちらもファンのロザリオ姐さん、今作では十分に弾けてないなぁ。残念。
 ベテラン組ではアンソニー・ホプキンスが目玉なんでしょうけど、私はクリストファー・プラマーが良かったな。渋いね。よ、アリストテレス!!アンソニーさんも、一歩間違うとアンソニイズムで映画のバランスを崩してしまうほどのオーラを持ってますから。それでも使うストーン流。案外この人たち、似てるのかもなぁ。
 しかし一番驚いたのは、やっぱりジャレッド・レトでしょう。大抜擢ですよ。もう一つブレイクし切らないジャレッドにとって、今のところ最高の当たり役かも。少なくとも、出番&役割は大きかったぞ。
 ストーン流と言えば、それがもちろん作品に魅力を与えている部分も多々あるのでして。例えば、アレキサンダーが巨大な兵力を抱えるペルシア王を四万の兵で破る戦闘シーンは素晴らしかった。“暴力描写賛美”はどうかと思いますけど、テクニックやスキルとして捉えた場合はピカイチですね。『トロイ』よりも迫力があるし、リアルタイムに刻々と移り変わる戦況を緻密過ぎるほどに追う件は、若きアレキサンダーの指揮官としての能力の高さをうまくイメージさせるのに成功してます。結構長いシーンなんですが、まったく冗漫さを感じさせない。結果の知れた合戦なのに手に汗握ってしまいます。観る者の気持ちを、傍観者ではなく、その場に居合わせている兵士のようにしてしまう。こういうのを本当の臨場感と呼ぶべきでしょう。
 長い長い特典ディスク、普段はあまり観ないのに、うっかり観てしまった…。オリバー・ストーンのご子息によるストーン流美学を追ったドキュメンタリー。メイキングとしては物足りないし、何でこんな家族の記録映画みたいなモノが???と思いつつ、微笑ましかったりもする。ちょっと作為的な感じもしますけどね(笑)。(了)
 

【DVD】『アレキサンダー』[初回限定プレミアム・エディション]<2枚組>

「旅から、音楽から、映画から、体験から生死が見える。」 著書です:『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。





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Last updated  2008/09/24 12:33:53 AM
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