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カテゴリ:変則書評:『ローマ人の物語』
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塩野七生著『ローマ人の物語』(31) 終わりの始まり(下)(新潮文庫) 読破ゲージ: ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ *********************************************************** 実力主義の時代。それはつまり、限られたポストを巡って、我こそはと思う者が、他人を踏み台にしてのし上がろうとする時代。コモドゥス殺害の後、事態の混乱を回避するべく近衛軍団長官レトーの計らいにより、元奴隷の子であり、着実にキャリアを重ねたたたきあげのペルナティクスが即位を決意。かつての上官にしてマルクス・アウレリウスの静かなる右腕ポンペイアヌスにも、共同統治を持ちかけるが、老将はより若い者を立てるよう断る。ペルナティクス即位の報は帝国を駆け巡る。一見スムースな政権交代に見えたが、すでに群雄割拠の時代は始まっていた。ペルナティクスを皇帝にしたその人、レトーがまず動いた。見返りに、私腹を肥やすに最高の“おいしい役職”、皇帝領エジプト長官を期待したレトー、まずは己の正統性確立に頭が一杯のペルナティクスのリアクションの遅さに痺れを切らし、皇宮に押し掛けペルナティクス殺害。87日間の治世。返す刀でレトーが次に推したのがディディウス・ユリアヌス。近衛軍団主導で頭のすげ替えが続く中、元老院も黙認するより手だてなく。ディディウス・ユリアヌス皇帝即位。ペルナティクス即位の際には、ある程度我慢できた将軍たちが、ユリアヌスには我慢がならなかった。パンノニアの守護神セプティミウス・セヴェルスが動いた。皇帝に名乗り。ブリタニカの総督クロディウス・アルビヌス、失笑を買ったもう一人の無名のたたきあげペシェンニウス・ニゲルが続いて皇帝に名乗りを上げる。皇帝ユリアヌスに三人が襲いかかる。王手をかけたのは無論、最有力のセヴェルス。本国で防戦に訴えるもセヴェルスはそこまで肉薄。皇帝自らセヴェルスに共同統治を持ちかけるも一蹴される羽目に。セヴェルスの行軍に、近衛兵もはやこれまでとユリアヌスを殺害。64日間の治世。恐怖の将軍はものものしく武装した兵団を従えて登場。勝負は決まった。ルキウス・セプティミウス・セヴェルス、皇帝即位。ちなみに、史上初の“大学出”の皇帝誕生。属州でも、北アフリカ出身の皇帝誕生。実ある施策を携えての恐怖政治ギリギリの緊張感は、政権交代に飽き飽きし、不安を抱えていた市民にはかえって好評。アルビヌス、ニゲルらの処遇を残すのみ。ニゲルとはイッソス平原で激突。万事につけ後手のニゲル、敗北。これまた遅れをとったアルビヌス、激戦の果てに死亡。内戦とは、自傷行為であり、体力を激しく損なう行為に他ならない。3年がかりでライバルを倒し、治世スタート。いきなり、元老院に対してコモドゥスの記録抹殺刑撤回を要請。強大な武力をバックにした元老院軽視の発議に、はやくも恐怖政治の匂いが。また、早々に息子カラカラを「インペラトール・ディシニャートゥス(皇帝の参与)」に指名。明らかに、セヴェルスの否応ないムードは過去の皇帝たちの雰囲気とは違った。軍人皇帝と呼ばれるにふさわしく、前代未聞の兵士の優遇措置を徹底断行。これがローマ帝国の軍事政権化のきっかけに。戦場を離れた兵士たちに、第二の人生を贈るカエサルの百年の計はここで終焉。ミリタリーとシビリアンは、もはや相互に行き交う中で無くなった。ベトナム戦争帰還兵の例を見よ。オリエントの太陽信仰の神官の娘、教養人、良妻ユルア・ドムナと皇帝の仲は良好なれど、息子たちには悩まされるし、義妹の娘つまり姪たちには掻き回される。哲人皇帝と同じく、軍人皇帝の彼もまた家庭内不和の犠牲に。まずは手始めに、手の付けられない暴れん坊将軍・長男カラカラが近衛軍団長官と不仲に。いさかいの末、次期皇帝ともあろうカラカラ、父の目の前で側近に切りつける。あるいは、元老院に対しては謀反人への正当防衛と発言。ストレス溜まった皇帝、痛風をおしてブリタニア遠征を決意。が、もはや馬車で動く事もままならないかつての武闘派の牙城。ついには遠征先のヨークにて、64歳の生涯を終える、セヴェルスの治世は18年。息子二人の不仲を憂いつつ。そして、憂いは現実に。父の死を待ってカラカラ、パラティーノの丘の皇宮にて、母を前に、弟ゲタを殺害。この後ローマは、所謂「三世紀の危機」に突入。男がピカピカのキザでいられた時代、今は昔。(了) ローマ人の物語(31) ■「旅から、音楽から、映画から、体験から生死が見える。」 著書です:『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/01/14 12:27:34 PM
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