832364 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Profile

快筆紳士

快筆紳士

Calendar

Recent Posts

Category

Archives

2024/09
2024/08
2024/07
2024/06
2024/05
2024/04
2024/03
2024/02
2024/01
2023/12
2009/03/24
XML
テーマ:お勧めの本(7334)
カテゴリ:書評
 大人になって読み返さない方が良い作品、というものがある。ということは、その対象はほとんど児童文学にも採り上げられている作品、ということになろう。時は2005年、折しも私はフランスはパリにいた。市内の博物館では、ジュル・ヴェルヌ没後100年の記念展が催されていた。そのポスターに描かれた“ノーチラス号”のレトロ・フューチャーなイラストに触発され、いつか時間が出来たら、ジュール・ヴェルヌをもう一度読み直してみようと決意した。
 今回、ようやくその気になって、ジュール・ヴェルヌ作品との驚嘆すべき旅に出かけた。『八十日間世界一周』から手を付けたのも、この旅をなにか特別なものにしたかったからだ。
 ところで、同じような気紛れで読み直したモーリス・ルブランのアルセーヌ・リュパンシリーズに比べて、ヴェルヌの作品は、どれを読み進めても、何か、期待したようなわくわく感をくすぐられないまま、ページは進むのである。この違いは何であろう?リュパン・シリーズの面白さは、子供心にも決して、推理小説的な展開に惹かれるようなミス・リードはしなかったように思う。明らかに、あの快男児、天下の大泥棒の男気、茶目っ気、溢れるバイタリティと、縦横無尽な知力に対する、抗い難い憧れが、この心を鷲掴みにしたのである。少年の日の私は、ルブランの作品世界でなく、アルセーヌ・リュパンその人に惚れてしまったのである(ルブランの懊悩、いかばかりか…)。つまり、登場人物のパーソナリティ、主人公のキャラクターというものに魅力を感じた私がやがて成長し、児童文学版でないリュパンに出会った時、子供の頃には分からなかった、人間の心の機微や、複雑な、あるいは単純な人間心理というもの、人物造形の妙というものが洞察できるようになって、ルブランの作品への関心は、かえって増進したのである。いささかは衰えたであろう想像力のかわりに得た「何か」によって、作品群の面白さを自身の中でぶらすことなく、もう一度楽しめたのである。
 しかし、ヴェウヌの場合はどうだろう。彼の作品にかじりついていた少年時代の私は、作品を通じて旅することや、未知なるものや未踏の異世界との出会い、そして、それを可能にする奇天烈な科学技術に、ただただため息を吐くばかりであったのだろう。そうだ。絶対に不可能に思われる旅も、ヴェルヌの作品の中では、絶対に可能な説得力を持って迫って来た。だからこそ、漂流したらなら自分はどうしたらいいだろう、地底に行くならこんな準備を抜かってはいけない、などと、少年の頭の中は、愉快に読み違えたリアル(のはず)な妄想や計画で無限に膨張していったのだ。おそらく私は、ヴェルヌの作品について言えば、作品世界の設定やシチュエーションに魅力を感じていたに違いない。人物か、シチュエーションか。そこが、ルブラン対ヴェルヌの構図における、一つの分岐点だったのだ。
 今ならば、ジュール・ヴェルヌの作品は、単に大衆文学の枠を超えたSF小説の先駆、あるいは、来る科学技術の未来を予測した慧眼、圧倒的な知識の正確さに裏打ちされた空想科学技術小説、などなど、賢い評価はいくらでもつけることができる。だが、もっと原初的な観点からヴェルヌの作品を、今読み返した私は、やはり「大人になって読み返すべきでなかった」という感想を述べざるを得ない。これは、あくまで私の、感傷混じりの主観でしかないが、そういう思いを抱きながら、読み進んだのは事実だ。『海底二万里』に感じた“落差”は説明のしようがない(嗚呼、驚嘆をもって読者に説明される海底の神秘の案内が、退屈な標本紹介にしか受け取れないとは!!)。
 ヴェルヌの作品に登場する、あの魅惑的な旅先の数々は、すでに現実世界で踏破された場所である。主人公たちが駆使した技術や科学のほとんどは、そのまま現実化したか、あるいは事欠かない発見の数々の中で修正を加えられて実現した。哀しいかな、進歩し過ぎた科学技術によって、ヴェルヌの空想実験のいくつかは、あり得ない事と証明されたりもしただろう。しかし、数々の評者や学者が言うように、ヴェルヌはもう通用しないー今だからこそ読み直そう、とまで言うべきかは措くとしてー、というのは誤りだ。ヴェルヌの作品は科学論文ではない。だからそれでも、やっぱり本来面白い。それらが色褪せ、もはや魅力を失ったのではなく、それらに驚きを感じる暇を与えてはくれないこの科学技術万能主義の社会に身を置いている我々の、喪失と思えば哀しむべきは我が身なのではないだろうか。ヴェルヌ後期の作品は精彩を欠くとい言われる。確かに、底抜けな明るさはなく、ダークな色合いが強いが、これもまた、要は初期作品より後期の出版された時代の方が、読者や社会の体質として科学技術に醒めてしまった、というだけではないだろうか。
 ところで、『カルパチアの城』『動く人工島』『悪魔の発明』など、子供の頃には読まなかった作品を読むきっかけにはなったが、これらとてそれほどの魅力を惹起しなかった。不思議な事だが、このたびの再読で、質は多少異なれど、やはり面白いと思えた作品は『八十日間世界一周』と『地底旅行』の二作品であった。この両作品は、ヴェルヌの作品においても、主人公の個性が際立っている点(フィリアス・フォッグ氏とリデンブロック教授)、さらにストーリー展開はスピーディーだが仕掛けはシンプル、という共通点を有しているように思えるが、その点。アルセーヌ・リュパンシリーズと相通ずるものがあるように思えるのは、もちろん偶然の類似ではないだろう。(了)


世界のコレクショントランプの販売トランプで7つの海を冒険だ!ジュール・ヴェルヌ 『80日間世界一周』


八十日間世界一周


地底旅行

「旅から、音楽から、映画から、体験から生死が見える。」 著書です:『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009/04/03 11:30:23 AM
コメント(0) | コメントを書く


Comments

プラダ バッグ@ gpzqtt@gmail.com 匿名なのに、私には誰だか分かる・・・(^_…
バーバリーブルーレーベル@ uqafrzt@gmail.com お世話になります。とても良い記事ですね…
バーバリー マフラー アウトレット@ maercjodi@gmail.com はじめまして。突然のコメント。失礼しま…

Favorite Blog

ペンギンの革人形を… New! 革人形の夢工房さん

新・さすらいのもの… さすらいのもの書きさん
価格・商品・性能比較 MOMO0623さん
抱きしめて 愛の姫.さん
天使と悪魔 ♡ り ん ご♡さん

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X