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バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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カテゴリ:映画/エンタメ
 私ね、暴力表現、あんまり好きじゃないんですよ。それが、デヴィッド・クローネンバーグの作品のすべてであり、それから目を背けたら、その向こうにある彼のメッセージが受け取れなくなるとしても。
 なので、実はちょっと敬遠してました、『イースタン・プロミス』。評判も良かったし、映画界でも評価が高かった。でも、躊躇いがありました。
 ただね、ヴィゴ・モーテンセンの演技と、いつも贔屓にしてますヴァンサン・カッセルが気になって、手を出してしまいました。
 やっぱりですね、エグかったですよ。話も、基本出口なしにダークだし。ただ、個人的にはロンドンのロシアン・マフィアの世界というのは、馴染みがなかったですし、この映画がそうしたアウトサイドの組織を描くことで、日常にある異常、あるいは、アウトサイドでありながらノーマルと連続している不条理な、しかしどうしようもない現実を舞台として立たせようという意味はよく伝わってきました。移民問題、人種問題、そして、意識的に日常化した自己(本作でいえば、ナオミ・ワッツ演じるロシア移民の子孫、アンナ)が否定した文化的ルーツを、非日常が取り戻させるということのリアリティが、巧みに織り込まれていました。
 モロにクローネンバーグ節でありながら、クラシカルで純然たるマフィア映画然ともしている。暴力描写の説得力は、なんといってもヴィゴ・モーテンセン@ニコライの強烈な演技にありました。うーん、コリャ絶賛されるでしょう。猛勉強の末にロシア人になり切った、というこの演技、でもガチガチの優等生風でもないんだな。ちょっとしたディフォルメやカリカチュアライズもしてみせるユーモアが滲んできます。でも、基本ガチンコ。地でニヤけ顔がすでに怖いヴィゴ(この人、真顔が一番ヴィジュアルですもんね)、肝心のバイオレントなシーンで、やたらに寡黙。だからまた、この自己の隠蔽を超えて、無化してしまっている謎の運転手の心の闇が、手探りすることも出来ずに恐ろしい。黙々とこなす裏家業に、強い説得力が出てしまっているのです。
 ヴァンサン@キリル、やりましたねぇ。もうこういう役専門か?というほどに、ドンピシャな(笑)。マフィアのダメな二代目、不肖のバカ息子。酔っ払い、臆病、小心、好色、短気。おバカで世話が焼けるし、厄介ばかり持ち込んでくる。しょっちゅうしゃべって吼えまくってるタイプ。でも、これがイイ奴なんだ。なんか憎めない。実は、マフィア側では一番まともな感情が残っている登場人物じゃないか、と。本当にしょうもない奴なんですけど、すごく深いメッセージを背負ったキャラクターだと思いました。一般人の生活と連続している、どうしようもないこの世の不条理。それって、まさに親を選べなかった(=とんでもない怪物を親に持って生まれてしまった)子、キリルの存在以上があり得るでしょうか。クローネンバーグの中の、回避できない不条理とそれがもたらす動かぬ現実を象徴する役、それがヴァンサン・カッセル演じたキリルではないか、と。
 私、お初でしたが、キリルの父、ロシアン・マフィアの一組織のボス・セミオンを演じるアーミン・ミューラー=スタールさん、ちょっと老境に入ったジャン・ポール=ベルモントみたいな、味出し風善人顔ながら、裏の顔の恐ろしいこと。感情の起伏と制御を使い分ける老獪なセミオンを、見事に演じています。こういう人が一番怖いんだ、実際の世の中では(苦笑)。
 非常に興味深いタトゥーの描写&解釈、“きわどい(というか、出ちゃってる)ヴィゴの全裸格闘シーン”など、話題となった箇所もしっかり楽しめました。
相変わらず、余韻もなく。いや、むしろブツ切りが醸す余韻で、出口なしのダークなストーリーに、かろうじて一条の光を投げかけて終わる(暴力描写を立てるために、託す未来を挿入するのか。はたまた、託す小さな、しかし力強い未来を際立たせるために、暴力を描くのか???)本作品、硬質のドラマとしても流石の一本でした。(了)


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「旅から、音楽から、映画から、体験から生死が見える。」 著書です:『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。





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Last updated  2009/05/05 01:58:25 AM
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