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バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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カテゴリ:映画/エンタメ
 私には、世界を放浪して、いつかは俺も!!という思いでアメリカから帰国した、いまだ大成しない芸術家の役がその場で振られた。小道具に、旅行用鞄とジャケット、画布二枚。両手が塞がっているが、動ける廊下は狭い。ぶつかったらどうしよう・・・と思いつつ、撮影の邪魔をしないことだけ考えて待機していた。
 が、そこで終わらないところが私の数寄者たる所以で、また同時に危なっかしいところなのだが、この脇役芸術家先生に、キャラクター設定を考えることにしたのだ。なに今回については、演技に反映するわけでなし、あくまで自己満足的に自分の中で楽しんでいればいいことで、それがほんの一瞬の後ろ姿、あるいは画面の切れ端に小指の先でもにじみ出たら面白い。いや、おそらく映画に参加するというのは、もう一生ないことかもしれない。俳優のプロフェッショナリズムとでは月とすっぽんだが、私なりにこの名もない役にストーリーを与えたらどうなるだろう、などと考え、小部屋での待ち時間、そんなことを思い巡らせて楽しんでいた。

 

 この芸術家。今は長旅と疲れでボロをまとってはいるが、それらがボロでなかった頃には、一介の芸術家の卵には似つかわしくない衣服である。きっと、明治時代のそこそこ良家の子息で、親の反対を押し切って芸術家を目指したのではないか。だが、世界を見聞してきた、ということは、資金があったわけで、各地で作品も売っただろうが、もしかしたら仕送りなど受けていて、だから最終的には家族の理解も得ているのだろう。だが、説得力がなくて家族が息子の夢物語に納得するような時代でもなかったろう。ということは、この芸術家、なかなか腕には覚えがあるのだ。そうでなければ逆に、成功できなかったアメリカから帰国して、少々恨みがましい思いを抱きつつも、引き続き「いつかは俺も」などという希望を抱けるはずがない。飯はなくとも希望で生きられるのは、自負心と、いまだ認められぬ才能がある若者だけだ。
 さらに、この男。その程度の腕も日々の糧もありながら、アメリカまで行って大成できなかった。ということは、結構ナイーブで、人間としては弱い部分があるのではないだろうか。いつの時代でも、異なる環境をものともせず、少しも悩むことなく成功できる人間は、繊細ではないが、なりふりかまわぬタフな者だけだ。とすれば、この芸術家、少々デリケートで繊細なのかもしれない(それで、画面にはほとんど映らないのだが、左手に持つジャケットは、だらしなく鞄にかけるのではなく、襟の方を進行方向側にピンと向けてみた。ただし、映り方の関係で、裾の方はそれと分かるように、少し乱しておくよう説明があった)。明治時代、180度転換する日本に戸惑いを隠せなかった、インテリ子女や芸術家がたくさんいた。この芸術家もまた、素直に体制の転換を鵜呑みにできなかったクチである。
 だが、インテリジェントだから、頑迷な旧人類ではなく、開明的ではあったのだ。若気の至りで、西欧かぶれし、日本を飛び出せば成功できる、などと考えていたかもしれない。
 この芸術家、アメリカのアートに打ちのめされてきた。「やはりヨーロッパの次はアメリカだ。アメリカの芸術は、やがて時代を席巻するぞ」と感じただろう。しかし同時に、単なるやさぐれ者ではないから、冷静で自然な批判力も持っている。「しかし、諸国を見てきたことで、日本の芸術の素晴らしさ、質の高さをかえって知らされる経験になった。学ぶべきことは日本にあったのだ」と感じたのではないか。そしてこう思う。「これからは、芸術に国境はない。いつか、アメリカも日本もなく、ただただ至高の芸術に奉仕する、垣根を越えてしまえる美の巨人が、登場するような時代が来なければ、芸術それ自体は死ぬだろう」と。そう、まさに日米のハイブリッド、越境者である美の巨人イサム・ノグチを予言しながら、船室を後にする・・・。


 と、そこまで考えたところで、本番に入り、わずか2テイクでオッケーとなったのだ。そんなマニアックな設定は、誰も知らない。だが、短くはない待ち時間の中で、またとないこの貴重な時間を使って、この通りすがりの芸術家の人物造形などしてみたのだが、これもまた密かな楽しみであった。本編で私の登場シーンはカットされてしまうかも知れないが、映画を待望している皆さん、そんな超マイナーな隠し設定(しかも非公式だし)を思い出して、いつかニヤリとしていただけたら・・・。(了)


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「旅から、音楽から、映画から、体験から生死が見える。」 著書です:『何のために生き、死ぬの?』(地湧社)。推薦文に帯津良一・帯津三敬病院名誉院長。





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Last updated  2009/06/17 05:15:27 PM
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