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カテゴリ:アート
11月28日(日)までということで、三井記念美術館で開催中だった『円山応挙―空間の創造』(国宝1点、大乗寺蔵「松に孔雀図襖」ほか重要文化財6点含む)を観に行ってきました。展示期間を二回に分けて、展示物を入れ替えたのは上手いなぁ。二回足を運びあたかったですよ。ともあれ、やはりここはいつ足を運んでも素敵な美術館。都会のビルの中にあって、束の間日常を忘れさせてくれるこの美術館は、まさに“創造された空間”です。
18世紀京都画壇の巨匠・円山応挙というと教科書的に作品はよく知っているのに、実はその人となりについてはほとんど知らなかったこと自分に気付きました。やがて、一枚の絵から空間そのものを立ち上げる一種の「劇場装置」を生み出してしまう応挙。バーチャルリアリティ、それも相当に精度の高い仮想現実を立ち上げるための襖絵にいたるまでに、その準備段階として、遠近法を再現できる、レンズを備えた「のぞき眼鏡」をいちはやく用いてかなり細密な絵を描いていたこと、その絵が、同時代の日本にあってはかなり異質なタッチや表現法(あたかも中世西洋の書籍の挿絵のようですが、それもそのはず。「のぞき眼鏡」そのものが、折しも18世紀ヨーロッパで誕生したばかりの機械でした)であったこと、近くから観賞する作品と遠くから見て価値のある「遠見の絵」とを分け、後者について理論と技法を編み出したこと(そのネタ帳も展示されていました)。そうした展示のテーマ分けから、大くくりに、感覚として応挙の人となりを把握しつつ、「遠見の絵」と狩野派を経てたどり着いた、空間創造の境地へと進みますと、まさに、面積以上の広がりが、目の前にばーっと開けてくる様に、鳥肌が立ちます。 奥行きや広がりといった、空間を構成する物理的な要素だけでなく、臨場感、つまり感覚や情感に訴える側面があってはじめて、精度の高い仮想空間が立ち上がるのであれば、円山応挙の作風は、まさにその極致、間違いなく一つの正解と言えるということが、実際に身を置いてみて、はっきりと理解できました。緻密さと大胆さ、惜しげもなくディティールを捨て去って見せ場に全力投球するかと思えば、荒々しい筆致の側に、執拗なまでにリアルな演出が施されていたり。しかしこれらも、完成するまでは目に見えない、応挙の中の仮想空間の設計図が、余人の創造をはるかに超えるレベルで正確だったからこそ成し得たのではないでしょうか。 三井記念美術館という、それ自体特殊な空間が、円山応挙の手によって、さらに深みと広がりを得て、また別の空間へと生まれ変わった瞬間。そんな展覧会でした。(了) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010/12/01 05:50:07 PM
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