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バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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カテゴリ:アート
 過日、世界を舞台に気軽にお茶の世界に親しんでもらうことを目的に活動されている世界茶会主催の『美しきマイ花押づくりワークショップ』、に参加してきました。
 お茶の世界と花押は無縁ではありませんが、よほどのことがない限り、自分で花押を書き付ける機会もありませんし、また自分だけの花押を持つということもなかなかありません。
 それでも、このワークショップに参加したいと思ったのは、昨年の茶杓作りが楽しかったこと、そしてそれに参加したことで、お稽古をストップして以来しばらく没頭することのできなかったお茶の世界に、お稽古まではまだ余裕がないのですが、少なくとも日常何気ない意識の部分で、かなり立ち返ることができたことがあって、また刺激をいただきに参加したのです。
 もともと、神社仏閣好きな子供でしたが、私の場合は、建築や仏像が好き、というのではなく、むしろ朱印集めが趣味になっていて、子供のころに「朱印帖が欲しい!!」と珍しく祖母にねだって以来、どこに行くにも朱印帖を持ち歩いて、せっせと朱印をいただいて歩いたものでした。中学時代に、修学旅行で朱印をいただいていたら、友人たちからは驚かれましたが、あの筆で書かれた、時に不可思議で象形のような文字は、子供の私を魅了してやまなかったのです。
 そうして大人になって、文章を書く仕事に携わっても、文字の持つ無限の可能性に相変わらずとり憑かれていまして、その延長としてマイ花押を作りたいと思うようになるのはもはや必然と言えるのです。
 もう一点、カナダに住む叔父が、これがかなりの風流人と言うか、洒落者なのですが、彼がよく誕生カードなどに、変わったサインを書いてくるんですね。海外では、日本語の署名は真似がしやすいため複雑なサインにしただけだ、と無頼を気取る叔父なら塩辛声で言いそうですが、あのご仁のこと、絶対に花押スキームを採り入れているに違いないと踏んでいるのです。それが格好いいんです、単純に。あんな花押風サイン書きたいなぁ、なんて思いまして。ちなみに、ブラジルに住んだ時、四歳の私でさえサインを自分で考え作りました。思えばこれが、マイ花押の原体験。次が、本を出した時に、漢字とローマ字を組み合わせたサインを作りましたが、第二のマイ花押・原体験ではないでしょうか。
 ところで、現在市販されているものでは、花押に関する文献は非常に少なく、あとは専門書になってしまうのでしょうけれど、私は望月鶴川『花押のせかい』(朝陽会)、佐藤進一『花押を読む』(平凡社ライブラリー)を事前に読み倒して、くずし字事典に毎夜くびっぴきになって前知識とイメージを固めてワークショップに臨みました(ちなみに、個人的には学術的な考察がスリリングな佐藤進一『花押を読む』は、著者のひたむきさと該博な知識、昔堅気な専門家風の誠実な記述に感服し、再読を重ねました)。
 さて、ワークショップ。書家でありながら、どちらかといえば学術的な観点から書と字を研究されている根本知先生のご指導のものと、茶会スタイリストで、お付き合いも長くなった岡田和弘さんのリードで進みます。
 この午前の会の出席者は10名程度ですが、岡田氏事前に曰く「かなりマニアックなので席数は多くないけれど」…、なんとすぐに満席になってしまったという。で、女子率高し。しかも、皆さんすでに素晴らしい知識をお持ちだし、日ごろからお茶のお稽古もされちるような方々。織田信長や伊達政宗ならまだしも、マニアックな武将の名前がポンポン会話から飛び出し「●●みたいな花押にしたいけど、▲▲の方が武将としては上だよね」などというマニアックぶりに、思わず感動をおぼえ嬉しくなりました。
 この日は、きちんと資料も配られ、それぞれ三名程度で一つの机に向かい、まずは自分が使いたい字と、そのくずした形を筆ペンでメモ書き。その中の好きな形や箇所をアレンジしたり組み合わせたり、事前に苦労して準備してくださった花押のサンプル集からお気に入りの形状を洗い出したりしながら、イメージを固めていきます。
 それに対して、字の美しさや意味の解説を添えながら、根本先生がアドバイスを下さいますが、基本は、「自分がカッコイイ」と思う形を尊重してくれます。だからマイ花押なんです!!
 私の花押は、実名の画数が少なかったり、氏名すべて見事なシンメトリーだったりするので苦心しましたが、結構トガった、それもあえて鎌倉武士風のものになりました。「ロックな感じですね~」と言われましたが、「いや、私全然マイルドなんですよ」と苦笑交じりに答えつつ、そのブラッシュアップに没頭。
 最後は、その時点でのマイ花押を清書し、お茶と和菓子(食感と酸味が美味でした!!)をいただいて終了。
 いやはや、小学校以来でしょうか、ペンとはいえ筆を真面目に持ったのは…。久しぶりに筆で文字を書くというのも楽しいことでした。その後は、清書したマイ花押を、毎晩一回は見直して、より自分のイメージする形状、筆の運びのスムーズ感を求めて、さらに研磨中であります。(了)


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Last updated  2011/07/01 03:36:10 PM
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