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カテゴリ:暇を持て余した日
俺がなんか書くのを期待されているようだ。コメの事かもしれないけど、とりあえず小説を書いておく。
作品を完結させたのは久しぶりだ。 ◇ 『差』 ある国が隣国と戦争を行う事になった。昔から争いが続いていたので、今回の戦争もそう珍しくなかった。 戦争とは一種の下克上でもある。戦争に参加する人間は訓練された兵士だけではなく、野望や希望を抱えた者も少なくない。前線に兵隊を送る軍事用トラック。その中に二人の少年が座っている。彼らは二人とも自らこの戦争に参加した。 二人は共に十六歳。片方は体つきがしっかりした子で、その目は闘志の火が燃えていた。 片方は背が低く細い体つきで、怯えた眼をしていた。 体の大きい少年は、立派な銃を抱いていた。金持ちの父が持たせてくれた物である。 彼に合わせて特注で造られていて、手にしっかり馴染む。一キロ先の物も撃ち抜く射撃精度。連射性も高く、反動によるブレも少ない。装填も素早く行えるようになっている。 また弾は特別製を使用していて、威力が最大まで上げられている。体のどこに当たろうが致命傷はほぼ避けられず、当たり所が良くても戦闘不能の傷を残すことができる。 彼の軍服の下には重厚な防弾具が取り付けられていて、これも自前だった。長い刃渡りの、これも彼の手によく馴染むナイフも、今は太ももにベルトで括り付けられていて、すぐに抜き取り敵の首を掻き切ることができる。 金持ちの家に生まれた彼は、いずれ跡を継ぐ。しかしその前に欲しいものがあった。 名誉である。勲章と言うのは金を積んだところで手には入らず、戦争で勝ち取るしかない物である。少年にはそれが家業を継ぐ自分にどれだけ重要な物なのかは分からなかったが、父親に取れと言う。父の命令は絶対だった。 訓練は父や専属の家庭教師から散々受けた。そこらの兵士に劣ることはない。優秀な武器防具もある。 少年は自信に満ちていた。 体の小さな少年はろくに武器を持たず、弱弱しい手の平に拳銃を一丁握っているのみだった。トラックに乗る前に支給された物であった。 たかだか十二発撃てるだけのものだ。射撃可能距離もそう広くは無いだろう。所々汚れていて使い古しなのが分かる。整備はちゃんとしているのか。何か詰まっていて、あるいは銃身が曲がっていたりして一発目から暴発したりするのではないか。少なくとも命中精度は悪そうであった。 武器支給を行った上官に何故自分の武器は拳銃一丁なのかと聞けば、 「君の体に合う武器がない。拳銃を持っていたほうが安全だ」 兵士は短くそう言った。兵士達が怖かった少年はそれ以上何も言わず黙ってトラックに乗り込むしかなかった。 少年の生まれは悪く、父も母も早くして死んだ。このままでは道で野垂れ死にがオチだったから、この戦争には藁にもすがる思いで飛びついた。ここで死ぬならそれまで。少年が生き延びるには手柄を立てるしかない。だがトラックに乗ってから、どうしても手の震えが止まらなかった。訓練なんか殆ど受けていないし、銃は拳銃一丁と、頼りないボロい防弾着を着ているのみである。 少年は死に震えていた。 ◇ 立派な銃をもつ少年は撃ちまくった。目に付く敵兵士を残さずその自慢の銃で殺していった。 スコープで覗けば建物の残骸の陰から頭を出している兵士がいた。それに十字を合わせて指を引くと、敵の頭は丸ごと吹っ飛び、首だけの死体が後からゆっくり倒れた。 敵の攻撃は熾烈だったが少年は臆することなく進んだ。敵が出てくれば撃った。時には支給された手榴弾を投げつけてやった。爆発に倒れ呻く兵士達に、彼は弾丸を与えた。 撃って撃って、弾切れをしたらすぐストックのマガジンを銃に叩き込んだ。そしてまた撃つ。威力はまるで小さなロケットランチャーだった。撃ち抜くと言うより吹き飛ばした。 彼はどんどん進んでいった。殺し、破壊し、進む。どうせ手にいれるならデカイ名誉がいい。自分にはこの武器がある。撃たれるようなヘマはしないし、撃たれても当たり所が悪くなければ平気だ。そう思った。 敵が支部にしている大きな建物。今回の作戦はここの制圧が目的であった。少年はその建物の傍まで来ていた。気付けば回りに味方はいない。あの熾烈な攻撃の中、進めたのは少年だけだった。 少年は恐怖しなかった。チャンスである。もし一人で中を制圧できれば大きな勲章が与えられる。 少年は建物へと侵入した。 少年は爆炎の舞う戦場で、拳銃片手に地面にへばりついていた。怖くて前に進めたものではない。弾の飛び交う音。もしそれのひとつにでもぶつかれば命は終わる。その呆気なさを想像すると立てたものではなかった。 指揮官の怒号が飛ぶ。進めと撃て。それだけ機械的に繰り返された。大人の兵士たちはじりじりと進んでいく。少年も泣きながらそれに続いた。 銃撃戦は一進一退で、弾ばかりが消費される。少年も撃ってみたが、一向に当たらない。 こんな恐ろしい思いをして死ぬのなら道で野垂れ死んだ方が幸せだったのではないかと少年は思い始めた。それでも死は恐ろしく、とにかく少年は敵を見れば撃ってみるのだった。 彼は兵士たちにくっついて行動した。一人では生きていけない気がした。それから塹壕に一度入ると、そこから出てくるのに三十分はかかった。出た瞬間少年の頭を弾丸がぶち壊すイメージが彼を動かしてくれないのだった。 「おい貴様。なにチンタラしてるんだ! さっさと行け」 兵士に怒鳴られて、仕方なく塹壕から飛び出す。弾丸が飛んでくる。耳をかすめ、その独特の飛行音が鼓膜を揺らした。ビックリして近くの塹壕のなかに落ちた。 「え?」 敵兵士がいた。相手は慌てて銃を構えようとしたが、狭い塹壕のなか、壁に銃口がひっかかった。その一瞬で少年は手の中の拳銃を相手に向けて引き金をひいた。反射的なものだった 。 相手は血を噴き倒れた。呻いていて、それを見て少年は慌ててさらに何発も撃ちこんだ。やがて敵は動かなくなった。少年の拳銃も動かなくなった。弾切れである。 敵を殺した事も恐ろしかったが、少年の感覚は既に磨り減り正常ではなくなっていた。むしろカチンという空しい金属音を発した弾切れの拳銃のほうが恐ろしかった。 慌てて彼は予備のマガジンを装填。だが彼が渡してもらったのはその一本だけだった。もうこれを使ってしまえば弾はない。 「どうしよう」 誰もいない塹壕の中。爆音と銃声だけが聞こえるがそれも妙に遠くで聞こえていた。耳がおかしくなってしまったのかもしれない。 少年は倒れている敵兵士を見た。腰のベルトには細長いものが括り付けられている。マガジンだった。少年の銃は凡用性が高く敵国も使用していた。弾は同じである。迷うことなく少年はそれに手を伸ばす。マガジンは血で塗れて暖かった。 弾の心配はなくなった。 ◇ 少年は建物の中に潜入すると、サイレンサーを自身の銃器に取り付けた。これによって発砲音は最小に抑えられる。これも特注物である。 まさか敵が基地の中に潜入しているとは思っていない敵軍を彼は奇襲した。なるべく存在がバレないように、見かけた兵士を一人づつ確実に殺していった。マガジンを入れ替える。 前線は一進一退を続けている。ゆえに敵にとって少年は全くの想定外。こんな早くここまで到達すること、それは少年の腕よりも運が絡む、奇跡と言っても差し支えない出来事だった。 警戒していない兵士を相手に、少年は次々と仕事を片付けた。後ろから忍び寄りその背に銃口を押し当て撃つ。最初は拳銃で行っていたが弾が切れたので捨てて、自慢の銃器で行った。威力が強いので、背中に押し付けてそうすると腹が吹っ飛んだ。血と肉が辺り一面を赤黒く染める。 それでついに少年の存在が敵に知れた。音が無くとも派手な殺し方だから隠しようがない。殺害現場を発見した兵士が警報を鳴らし、基地内は警戒体制に入った。 すると少年はすぐ発見されて、激しい銃撃戦になった。少年は冷静に、一人づつ確実に撃ち殺していった。囲まれないように気を配りながら細い廊下を逃げる。後ろから追ってくる敵を撃ち、前から現れる敵を撃つ。マガジン交換。 撃って、逃げて、撃って、走って。止まれば追いつかれ、進めば敵と出会う。だがこの極限状態でも少年は笑っていた。まるで守られているようだった。銃に込められた父の想いか、神の力か。少年は万能すら感じていた。 見慣れた道に出た。通った覚えがある道だった。この道を戻り脱出しようと少年は考えて、走った。相変わらず敵は追いかけてくる。 「貴様! 止まれ!」 敵兵士が飛び出してきた。旧式の突撃銃をこちらに向けている。少年はすぐに彼に銃を向けた。 が、何を思ったか少年は兵士の持つ銃を撃った。銃は少年の弾丸によって吹き飛び、同時に兵士は悲鳴をあげて倒れた。そうして地に伏した兵士を少年は見下げる。兵士の右手の指は先ほどの衝撃で千切れ、血が噴出している。 兵士は残った左手で拳銃を構えた。左手の指も何本が折れていた。少年は冷静にまた拳銃を撃ち吹き飛ばした。悲鳴。 少年の中に不意に現れた、ちょっとした優越感と残虐性。ただそれだけだった。兵士の持つ銃が自分のそれと比べてあまりにも貧弱で弱弱しかったのが気に入ったのだ。その力の差に酔いしれた。 少年は狂気的な優越に満足すると兵士に銃口を向けた。兵士は命乞いをし、手を顔の前でばたばたさせたが、もちろんお構い無しに引き金を引く。 弾は出なかった。 少年は舌打ちをして、ベルトからマガジンを取りだそうしたが、その手は空ぶった。 万能は終わった。完全な弾切れだった。 しばらく訳が分からなく、少年は同じようにマガジンを取ろうとして空ぶった。そうしているうちに迫り来る足音。敵兵士たちの怒声。目の前で泣きながら手を暴れさせている兵士。今まで興奮状態で見えてなかったもの、聞こえなかったものが、少年を押しつぶした。 恐怖。 「くそっ! くそ!」 慌てた。出口は近いが武器無しでは突破は無理だ。辺りを見回して、兵士の持っていた銃が転がっているのに気付いた。嬉々として拾い上げるが、それは壊れていた。当たり前である。彼が撃ったのだから。 少年は振り返り倒れている兵士の服をあちこち弄った。マガジンが一本出てくる。すぐさま愛銃の下に戻りリロードする。 できなかった。当たり前である。愛銃が使うのは特別製の弾だ。一般的な弾が使えるはずがない。 少年は追い詰められた。前に進むことも後ろに下がることもできない。まるで密室に閉じ込められてしまったかのような錯覚を覚えた。外への道はあると言うのに、進むことはできない。 足音がいよいよ近くなってきた。 少年はナイフを抜き出した。そして地面に転がっていた兵士を滅多刺しにした。兵士はあっと言う間に死んだが、それでも少年は刺し続けた。返り血で真っ赤に染まってようやくその手をやめた。 笑った。震える手でナイフを握り締めて、ただ廊下の隅に座りながら。 ◇ 敵の様子がおかしいと誰かが言い出した。何かトラブルがあったようだと。しばらくして突撃命令が出て、味方が一斉に走り出す。 拳銃を持つ手はもう震えず、少年は流れに乗った。進むにつれて戦いは近距離的ものに変化した。少年の撃つ弾もよく当たるようになった。彼の周りには兵士が沢山倒れていて、弾がなくなると彼らから拝借した。 やがて大きな建物が見えてくる。銃撃は激しくなる一方だが、それでも建物への侵入がなされた。 少年は大人たちと外の敵を殲滅した。建物には決して入らなかった。 その入り口が暗い闇へと続いてようだった。何か、その中と外では大きな差があるような気がしたのだった。 進むのは無理だと悟ったのかもしれない。 生きる。少年にはそれが精一杯だった。 その手には、小さな拳銃しか握られていないのだから。 了 ◇ うん、訳分かんないかも。 長くなった。読んでくれたら有難う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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