漆(うるし)のお弁当箱
原生林の上空を飛びながら「ホーホケキョ」と、僕は鳴いた。え?何で僕、鶯(うづいす)に成って飛んでるんだろう?まあ、驚くことでもない。魔法使いの少女が勝手に、僕を変身させたんだ。「やれやれ」と呟いたつもりが、「ホーホケキョ」と鳴いていた。「ホーホケキョ(やれやれ)」と、僕が鳴くと、地上の原生林で、立ち尽くしていた魔法使いの少女と目が合った。無茶振りされる気がしたけど、僕は吸い寄せられるように降下し、魔法使いの少女の指に止まってしまった。原生林の澄んだ空気の中にいる少女は、その空気と同様に、透き通るような表情をしていた。でも着ている服が、鹿の着ぐるみっぽい?ん?これは着ぐるみじゃない。本物の鹿の毛皮と角だ!「ホーホケキョ(何着てるんですか!)」驚く僕の叫びに、鹿の尻尾が嬉しそうに揺れた。「ネットで見た、着ぐるみパジャマが可愛かったから、自分で作ってみたの、可愛いでしょう」彼女の可愛いの基準が解らん・・けど、「ホーホケキョ(う・・・うん)」と返答。そう言えば、彼女の私服を見るのは初めてだ。初めて見る転校生の少女の私服が、鹿の剥製で作った着ぐるみパジャマとは、驚愕すぎる。剥製の鹿の目が、何かを悟ったような目をしていた。この状況、悟るしかないよね。「行こう」鹿の剥製着ぐるみを着た少女は、僕を指に乗せたまま、歩き出した。5分ほど歩いたところに、雑木林の中にこんもりとした小山があった。「ホーホケキョ(こ・・これは・・・・)」一見、外からは小さな小屋ぐらいの、小山に見えたが「ホーホケキョ(これは、竪穴式住居!)」驚く僕に少女は、「昼ごはんにしましょう」と呟く様に言うと、隠し扉を開け中に入った。竪穴式住居の中は、ひんやりとして気持ちよかった。「私が張る結界の砦みたいなところよ。半分地中に埋まってるから、大地の気の流れを感じやすいの。最近、大地の流れが大きく変わってしまった性で、私の張った結界が突破された。」多分、この前の暗殺者たちの事だ。憂いた顔の少女に僕は、鳴いた。「ホーホケキョ(・・・・)」この場に鶯(うぐいす)の鳴き声とは、なんか間が悪い。「・・・それよりお腹すいた。今、幕の内弁当が食べたい気分」と、少女は言ったが、幕の内弁当など見当たらないし、ここは原生林のど真ん中、弁当屋なんてどこにも無いはず。「ホーホケキョ(まさか!)」少女は僕の泣き声に、ニヤリと笑った。そう、次の瞬間、僕は幕の内弁当に変身させられた。「私ね、いつも思ってたの、あなたって、幕の内弁当みたいだって、可もなく不可もなく、存在感も薄め。でもある種の安定感は持ってる。でね、『本当にあなたが幕の内弁当だったら、どんな味がするんだろう?』って」「ぼ・・・僕を・・・男を食い物にする気ですか!」「否定はしない」「否定して下さい!」「心配しないで、状況を正確に言うと、お弁当箱が、あなたを形作っている型。あなたの血や肉や骨を変換したもの。そして、このお弁当に入っている料理は、あなた自身の思念情報と、遺伝子からの遺伝情報を、組み合わせ食べ物として具現化したもの」少女はそう説明したが、なんの事やら・・・・「私が今から食べようとしているのは、あなたの意識情報」「僕の意識情報?」「夢を食べる獏(ばく)みたいなものよ。」「僕の意識情報を食べてどうしようって言うの?」魔法使いの少女は、僕の問いに答えることなく、「いただきます」と言ってしまった。そして、弁当の蓋は開けられ、僕の中身を少女に晒(さら)した「おっ、漆(うるし)のお弁当箱・・・渋いね、少年」「いやん(/ω\)」「えーとメニューはご飯に梅干、鮭に、から揚げに、豆が乗ったシュウマイ2つに、ウインナー・・・あなたのウインナー(笑)」「いやん(/ω\)」「えーと、後は、玉子焼きに里芋の煮物に蓮根にゴボウサラダ、鶉(うずら)の卵が2つに、飾りだけのレタス1枚、そしてナポリタン少々、沢庵3枚、チーズ竹輪・・・あっチーズが出掛かってるよ、少年。何でかな?」「・・・」「授業中も元気だったのは何でかな?ふふふ、その件は秘密にしといてあげる」「・・・」「おおお!葉蘭(はらん)が、本物の葉っぱだ!料亭みたい、やるねー少年、見直したよ」少女は、何の躊躇いもなく、幕の内弁当を食べ始めた。「味は・・・まあまあ、可もなく不可もなく」食べておきながら、酷い評価だ。そして、弁当箱の僕は空っぽになってしまった。空っぽになった僕を、少女は近くの川で洗い、「ご馳走様。」と丁寧に締めた。竪穴式住居に戻った少女は、原生林で取れた山菜を使い、夕食を作った。そして、空っぽの弁当箱に山菜御飯を入れ、その上に、山芋をどっさりかけた。「さあ、人の姿に戻りましょう」少女はそう言うと、僕を人の姿に戻した。「どう?幕の内弁当から、山掛け山菜御飯弁当に代わって気分は?」「山掛け山菜御飯な気分」僕は面白みの欠片もない返答をした。しかし、大量の山掛け・・僕に何を求めてるのだろう?また元気になっちゃう。「山掛け山菜御飯で、この原生林の精霊を取り込んだあなたは、少しだけ私に近づいたの」私に近づいたの?この魔法使いの少女は何者なんだろう?少なくとも、本物の鹿の毛皮着ぐるみを着た少女は、只者ではない。竪穴式住居を出ると、原生林の冷たい風が吹き、鹿の着ぐるみの尻尾が、嬉しそうに揺れた。おしまい↓押してくれると、いと嬉。(*^o^*) ライトノベル ブログランキングへ