カテゴリ:月の巡洋艦 ルナメル
サネトモ・トキトウ少尉は、訓練から帰還中に司令部より連絡を受けて、高機動型ゼム1機で、現場の7番宇宙船ドックに向かった。 「7番宇宙船ドック上空に到着、ドックは炎上中」 司令部へ連絡を入れた。 7番宇宙船ドックの上空には、宇宙巡洋艦が、滞空していた。 滞空していると言うか、ウロウロしてると言った方が正確だ。 宇宙港付近での光学迷彩は危険とは言え、丸見えの宇宙巡洋艦が、敵ゼムに襲われたら、ひとたまりもないのに。 宇宙巡洋艦のブリッジの上部には、カルル少佐専用艦であることを示す、日本の武将の兜を被っていた。 「ルナメル?」 だとすると、トキトウ少尉の同期のエイミアやココが乗ってる艦だ。 ゲリラに乗っ取られた可能性も含めて、マシンガンを構えながら近づいた。 「こちらトキトウ少尉」 「トキトウ少尉?」 とエイミアの可愛い声が聞こえた。 その声が、トキトウ少尉にスイッチを入れた。 「エイミアちゃん!!!!!! 俺俺、サネトモ・トキトウ、エイミアちゃんの恋人のサネトモ・トキトウだよ! 愛しのエイミアちゃんに会いに、只今参上しました」 ルナメルのブリッジの大きなスクリーンに、高機動ゼムと時任実智の顔が映し出された。 「ウザい」 エイミアは嘆いた。 「見て見て、俺、高機動ゼムに乗ってんだよ。凄くない?やっぱ俺、天才だよね」 「・・・」 「冗談だよ!エイミアちゃん、そんなヒーローを見る目でみるなよ」 「・・・」 「俺は遠くに行ったりはしないよ。いつまでもエイミアちゃんのトキトウだよ。」 「・・・」 「あっそうだ。任務中だった。ルナメルの中に入れてもらえる? 司令部に報告しなくちゃいけないんだ」 「どうぞ」 「イエ――――イ」 スクリーンの向こうで、まだトキトウ少尉が騒いでいるので、音声を消した。 呆れたカステラーニは、 「彼、今の現状を理解してるの?空気を読めないアホなの?」 エイミアはカステラーニの横顔を見た。 一見、普通の女子大生に見えるが、18歳で大学院の研究生をやってるとあって、知性は隠しきれていない。 16歳のエイミアに取って、この年上のお姉さん感は、とても安らぐ。 ただ何を研究してるのかは、言葉を濁された。軍関係には機密が多いのだ。 「彼は一応、同期ではゼムの操縦はトップクラスで、カルル少佐の再来とおだてられてた。でも、どちらかと言うとアホね」 「エイミアさんの恋人とか言ってるけど」 「奴の妄想、彼はいつもお花畑を走ってるの」 トキトウ少尉の報告は、軍司令部を安心させた。 7番宇宙船ドックに進入したゲリラは、軍の治安部隊に鎮圧された。 ドック周辺の月面には、月面用戦車が展開を開始していた。 「ルナメルは、N3地点まで進入し、上空の警戒に当たれ、ゲリラに呼応した工作艇がいる可能性がある。トキトウ機は、引き続きルナメルの護衛に留まれ」 人使いの荒い軍司令部は早速、命じた。 使えると解ったら、素早く使う。 組織としてまだ新しい月面都市連合軍には、その傾向があった。 しかし、色んな事が済し崩し的に進められる事に、エイミアは怖さを感じた。 唯一の幸運は、誰にでも馴れ馴れしいサネトモ・トキトウが、ユージン・カイムをかなり苦手としている事だった。 カイムの暗黒ボッチオーラの前に、トキトウの陽気なリア充オーラは、吸収され委縮される。 ユージン・カイムの強行偵察ゼムと、サネトモ・トキトウの高機動ゼムは、仲良く警戒に出た。ゼム同士だと、仲よさげに見えた。 ルナメルはまだ航路上なので、光学迷彩モードへの移行が出来ない。 戦時下と言うのに、融通が利かない。 ココはルナメルの操舵に慣れたのか、静かにを月面上空に上昇させた。 月の重力から離れ無重力へと移行した。 エイミアは身体が軽くなり、心も軽くなったような気がした。 無重力が心に与える影響について、考えながら、冷たい宇宙空間を眺めた。 でもまだ仮の艦長代理状態のエイミアには、クルーが誰なのかを把握していない。 ただ索敵・管制担当オペレーターの3人の少女は、何となく解る。 マリアナシスターズだ。確認した訳ではないが独特の匂いがある。 それに90点以上の美少女が3人もそう揃う訳がない。 「桜乃、梅乃、桃乃とか言ってたっけ」 まあ監視要員だろう。 しかし、直接ルナメルを監視する程の価値があるのか? 月軌道上を横切る壊れた人工衛星の様な物が見えた。 「見て見て、ゼム同士がお手手を繋いでる。意外と仲良いじゃん」 エイミアは、微笑んだ。 ゼムは、手をつないだまま光学迷彩モードになり、姿を消した。 カイムの強行偵察ゼムは、トキトウ機の手を握ると 「あのスペースデブリ何かいる気がする」 トキトウ機にカイムの声が聞こえた。 「熱源は?」 「今はない」 カイム機は、スタンガンを手にした。 出来れば捕獲したい。 「俺、ちょっと見てくるわ」 トキトウ機が静かに人工衛星に近づき、マシンガンをパンパンと撃った。 「人工物に熱源反応あり!」 ルナメルのマリアナアシスターズが叫んだ。 マシンガンのアンチ光学迷彩弾で人口衛星の一部が弾け飛び、射撃体勢に入っていた敵のゼム・スナイパーが姿を現した。 と当時に、スナイパーを守るように、ゼム・コマンド―がトキトウ機に銃口を向けたが、トキトウ機の射撃の方が早かった。 しかし弾倉が切れた。まだ恐怖から、すぐ撃ちすぎてしまう。 ヒートソードを手に、スナイパーに襲い掛かるが、爆炎と爆風が邪魔した。 同時に飛び出してきた移動砲台のヒューボットが、強行偵察型ゼムの頭部メインカメラを吹き飛ばしていた。 「間に合わない!ルナメル避けろ!」 カルル少佐専用艦でも、さすがにゼム・スナイパーの狙撃を避けるだけの瞬発力はない。 「狙撃手がブリッジを狙ってる!もう避けきれない」 イクの言葉にエイミアは血の気が引いた 「ブリッジを?わたしたちを?」 突然訪れた「死」をブリッジのクルーは覚悟した。 「せめてココを見ながら死にたい」 エイミアは、ココの後姿を見つめ、5次元人のイクは、エイミアの胸に顔を埋めた。 イクとエイミアの二人をカステラーニさんが抱きしめてくれた。 抱きしめてくれたところで、敵スナイパーの射撃の直撃を受けたら誰も助からない。 でも死ぬ時は一緒。「ありがとね」エイミアは小さく呟いた。 走馬灯のように色んな事が想い起こそうとしていると、ブリッジの天井で破壊音がした。 「助かった?兜がなけれが即死だった?」 カステラーニさんは言った。 そう、確かカルル少佐専用機は、三日月の兜をかぶっていた。 「ふっふっふっ、量産型とは違うのだよ!量産型とは! 地球連邦め調子乗ってんじゃねーぞ!ボッチとお花畑野郎やっちまえ!」 エイミアは叫んだ。 お花畑野郎?俺の事か?と考えが浮かびながらもトキトウは、叫んだ! 「野郎!!!!!!俺のエイミアちゃんを狙いやがって!」 しかし、高機ゼムが攻撃する前に、首のない強行偵察型ゼムのスタンガンによって、スナイパーは動きを止められていた。 「俺の見せ場が・・・」 トキトウは1人嘆いた。 つづく 【エイミア・サトー】ココ・ルキの幼馴染。他称・まあ出来る子。 【ココ・ルキ】落ちぶれ貴族ルキ家の次男。他称・まあ出来ない子。 【イク】五次元人 【メリッサ・カステラ―ニ】イクの担当技官 【サネトモ・トキトウ】エイミア&ココと同期のパイロット。もっとも優秀な同期。 【ユージン・カイム】エイミア&ココと同期のパイロット。もちろん友人は皆無。 【ショウマ・ドーキンス】士官学校時代の教官。ヒメネスとの情事で懲戒免職 【カタリナ・ヒメネス】ドーキンスの恋人?エイミア達と同期。 【シェーラー家のマリアナ】ココが好き。 【マリアナシスターズ】桜乃 梅乃 桃乃 の三人組。美少女感は半端ない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[月の巡洋艦 ルナメル] カテゴリの最新記事
|
|