一番上のやさしかった姉が
夫の後を追う様に50代で亡くなった頃は、
3人の子供達はそれぞれ、大人になって独立してはいたが、
まだまだ若く、その嘆きも、尋常ではなかった。
姉の夫は、
他人から見れば、会社の華やかなポストにあったが
実は、社長に子供のころからお世話になっていたので、
まるで下男のように、滅私奉公をしていた。
真面目な性格の上に有能な人物だったので、
非常に調法がられて、あらゆる事を任された。
会社で彼が歩いていることはなかった、
いつもきらきら走りまわっていたと人は言った。
家族と共に行くこころ安まる旅行などは、
ほとんど無いに等しかった。
他人様からは、その身分を、うらやましがられるばかりで
想像できない事だったが
とにかく
今どき信じられないほどの忍従の生活だった。
子供達や姉も、その犠牲の生活に従っていたので、
姉が亡くなった時に子供達は、
姉がこの世界の楽しいことも何一つ知らずに
亡くなったと思い
姉の死をひどく悼んだのだった。
その時、悲しむ子供達を前にして私の母が、
「そんなに悲しまなくていいのよ。
お母さんは、あなた方がそんなに無念がるほど
つらい暮らしをしていたわけではなかったの。」と、
自分に言い聞かせるかのように、言葉をかけ慰めた。
実は
姉は、夫の死後、はじかれたように
夢中で旅行に行った。
ヨーロッパにも、アメリカにも、アジアにも行けば、
日本国内をくまなく歩いたし、
ちょっと近くに何か小さなイベントがあるを聞くと
母を連れて出かけ、楽しんでいた。
亡くなる前日にも私に電話をかけてきて
「昨日ハワイから帰って来たのよ~」と喜んでいた。
今、振り返えってみれば、
姉は、まるで、
遮二無二、生き急いでいたかのように思えるのも
さみしい。