「中立」か「活力」か
日本の財政は、財政赤字が相当な規模に達して、しかも長期間に渡り債務残高がどんどん増えてきています。このような状況の中、いま 平成18年度の税制改正が審議されています。税制改革を進めるためには課税の「公平・中立・簡素」という3っの基本原則を掲げてきました。最近この基本原則に代えて、2002年3月に竹中経済財政大臣(当時)が経済財政諮問会議において「公正・活力・簡素」を用いるべきだとの主張をしています。それ以来「中立」か「活力」かの選択が注目を集めるようになりました。バブルが崩壊して以来、日本経済は長い間 景気低迷、デフレ状況を続けているために、税制には短期的な景気刺激策として、またデフレ対策としての期待がこめられ、経済の活性化を図るための税制が求められております。その代表例がいわゆる租税特別措置法という形で政策減税として自民党税調等が主張するものです。景気刺激のために設備投資・住宅・土地・証券等の促進を図ろうとするものです。特定分野に集中して減税を実施し「活力」を与えようとするものです。しかし その結果 租税特別措置法による税収の減少額は、平成17年度ベ-スに於いて 37,970億円の減収となっています。 企業関係の租税特別措置法による減収額 試験研究税制 6,570億円 (37.5%) IT投資促進税制 5,120億円 (29.2%) 留保金課税の特例 1,550億円 (8.9%) 中小企業投資促進税制 1,530億円 (8.7%) 等 個人関係の租税特別措置法による減収額 住宅促進税制 6,910億円 (18.2%) 生・損保控除 2,510億円 (6.6%) 配当所得の課税の特例 1,670億円 (4.4%) 等租税特別措置等は、特定の政策目的を実現するための政策手段の一つであると思いますが、「公平・中立・簡素」という租税原則に反する例外措置です。本来「中立」とは経済主体である企業や個人の行動を税制が歪めてはならないことを原則としており、特定の課税対象者を税制上優遇することは課税の公平が保てなくなります。税制調査会では租税特別措置等の整理・合理化「官から民へ」の改革が進む中、個人・企業の活動に対する政府の関与を見直すことが課題となっている。税制についても、個人や企業の選択に中立で歪みをもたらさないことを基本とすべきである。このような優遇措置は見直して、政策税制を考え直し、既存の租税特別措置等について本格的に統合ないしは廃止をしていただきたいと思います。私は、その一番手として住宅ロ-ン減税を廃止すべきではないかと思っております。個人の持家取得を支援するために租税特別措置法で景気対策の観点から住宅ローン減税を成立させましたが、相当高額な所得を有する多くの住宅取得者が長期間にわたり所得税額ゼロとなることは、税負担の大きな不公平をもたらし、また、所得税の空洞化を助長しています。景気は少しずつではありますが、バブル崩壊後持ち直している状況にあり、住宅ロ-ン減税の役割は十分に果たしたのではないでしょうか・・・実際に住宅ロ-ン減税の恩恵を受けている人はバブル崩壊後住宅を取得した人達で、バブル期に持ち家を購入した人は住宅ロ-ン控除も僅かしか受けられず借金に負われている毎日です。また借家住まいをしている人達にはなんら恩恵もありません・・・・財政が悪化している状況を考えると6,910億円はとても貴重な財源です。歳出削減や増税論議も重要だとは思いますが、不公平税制の見直しも、是非進めていただきたいと思います。政府税制調査会には、課税の「公平・中立・簡素」の原則を忠実に実践し、短期的な視野で考えるのではなく、中長期的な観点から景気刺激策を取っていただきたいと思ってやみません。安西節雄