重すぎるけど、がんばります
11月中旬に元財務省主税局長、前国税庁長官で現在商工中金副理事長の大武健一郎氏を講師にお迎えしての少人数での勉強会に参加する機会を得ました。大武先生は、国税庁次長時代に21年ぶりの税理士法改正に尽力され、主税局長時代には32年ぶりの日米租税条約改正に尽力されるなど、私達税理士にとっては関係浅からぬ方と言えるでしょう。また先生はベトナムでの税理士制度導入にも個人的に協力されているようで、2007年にはベトナムに税理士制度が実現できそうだとも話されていました。大武先生の講義は「経済のグローバル化と日本の財政・税制」と題して行われ、その内容は戦後経済の分析から21世紀の国家の役割までととても幅広いものでしたが、特に「複式簿記に基づく会計制度は近代経営を支える社会インフラである」という指摘は、私達職業会計人にとってとても勇気付けられるものでした。大武先生いわく、いわゆる大福帳のレベルは何でも並べれば売れるので全体として儲かっていれば良いという時代においては事業成績の把握に役立つこともある。しかし今日のように、1回の取引で儲かるのか損するのかまで把握できなければ企業間競争に負けてしまうというような時代においては、対応していかれない。まして月次決算、もっと言うと日次決算をとなると、複式簿記に基づく帳簿体系なしでは対応していかれない。これでは自社の現状を正しく分析し、その結果を踏まえた合理的な経営判断を行っていくことなど、望むべくもない。このことから考えると、複式簿記に基づく会計制度は近代経営を支える社会インフラであると考えられる。複式簿記の有用性は、かの文人ゲーテ(この人昔ドイツで財務大臣かなにかを経験していたんですって。知りませんでした。)も小説の中で記述している。税理士は申告納税制度に絡めて記帳の大切さを訴えることが多いが、中小企業に対する近代経営のインフラ整備という観点で記帳の大切さを考えて、普及を担うべきである。というような主旨でした。もっと大武先生の話の内容を詳しく知りたいという方は、著書「税財政の本道~国のかたちを見すえて(東洋経済新報社)」をお読みください。確かに正しい記帳は申告書作成のためにあるのではなく、会社の実態把握とその後の対応策の策定に対して有用な情報を提供するためにあるはずです。ところが日常私達(私だけかも)は、ついつい決算書の後にある申告書の作成に意識が向かいがちでした。グローバル化が進み、中小企業の競争相手も国内の企業だけではなく全世界の企業に広がっています。このような時代の中、日本の中小企業の国際競争力向上が声高に叫ばれていますが、そのためにも中小企業に広く近代経営の考え方を根付かせ、広げていかなければいけません。会計参与制度の創設も含めて、今私達税理士に社会インフラ整備というこれまであまり意識してこなかった、しかしもともと大切だった重責が求められているという時代の流れを肌身で感じました。う~ん、重すぎてめげちゃいそうです。いやいや、志は高ければ高いほど自分を育ててくれるはず・・・と信じてがんばらねば。会社法施行や特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度の導入といった目先の課題への対応ももちろん大切ですが、もっと大きな時代の流れを理解することの大切さと、税務支援事業だけではない志の高い社会貢献の可能性を再認識させられた、有意義な勉強会でした。 田中 大貴