税制大綱発表に向けて(税制調査会の答申)
11月のブログで当所沢支部の萩原博之先生も税制調査会の答申(配偶者控除)について、意見を述べられていましたが私自身も同じ税理士として、やはり気になるところですので、今回のブログの題材にしました。日本の税制は大体、例年12月の中旬に「税制大綱」という形で大枠が決められてそれに沿って改正作業等が進められていきますが、その前提として税制調査会でどのような事が論議されたかを知ることは税制大綱の発表のこの時期に一つの道しるべとなると思います。さて税制調査会の答申ではまず、総論として「抜本的な税制改革に向けて」と見出しが最初に来ています。内容を見ると少子高齢化や経済のグローバル化等により・・・厳しい財政状況の中で対処していかないといけないと書かれています。(ここまでは昨今、色々なところで言われているとおりの事実ですね。) そして肝心の中身の各論ですが個人所得税の中で話題なところは・・・1 「配偶者控除と配偶者特別控除の見直し(縮小)」これらは配偶者の就労の中立性を阻害するなどの理由から、その見直しが提案されているようです。 これについては今から3年ほど前に、それまで専業主婦を配偶者に持つ方が適用を受けていた配偶者控除と配偶者特別控除のダブル適用が出来なくなってから、毎年の様に論議に上がっている感じがします。 そして・・2「扶養控除と特定扶養控除の見直し(縮小)」 これらも今現在、扶養している子供や親などが所得要件さえ満たせば年齢に関係なく扶養控除の対象となることが問題であること、また特定扶養控除の適用対象となる16歳以上23歳未満の子供だけに教育費がかかるわけではないこと等により、制度の見直しが提案されているようです。 これについては特に低所得者家庭に関しては所得控除として扶養控除が、所得から差し引けないなどの事情もありその恩恵を受けることが出来ない、逆に所得から差し引くのではなく児童手当等として収入面に手当する方が実効性があるのではないかという事も関係していると思います。 そしてサラリーマンには気になる・・3「給与所得について」 これは給与所得者(サラリーマン)の必要経費相当額である給与所得控除額について、現行制度ではその上限が設けられていません(逆に現行制度では最低控除額として65万円の控除が保障されています。)が、上限が必要ではないかという意見と、給与所得者の必要経費の実額を認めた特定支出控除(新幹線通勤などの高額の通勤費用、単身赴任先からの帰郷費用等)の対象範囲等の拡充も提案されているようです。 まず給与所得控除額の上限についてはこれを設けることで高額所得者に対して今よりも一定の負担をしてもらいたいという事、そして特定支出控除の対象範囲の拡充については、現行制度の特定支出控除が全国で毎年10人前後の利用者しかなく、事実上その効力を失っていること(実効性が無い)に対するテコ入れの意味合いがあると思います。 老後の資金の気になる・・4「退職金について」 退職金の支給形態の多様化と退職金税制を利用した税負担の回避があることから、退職所得控除額の見直し(縮小)や、退職金にかかる所得の2分の1にしか課税されない税金計算の仕組みを見直す(縮小)提案がされているようです。 しかし、退職所得は重要な人生設計上の期待にも関わる問題となることから、所要の経過措置も必要とされているようです。 退職金の支給形態の多様化に関しては元々現行制度の退職所得の課税方法は、日本独特の慣習と言われた終身雇用制度を前提として作られた点にあります。つまり長く勤めれば勤めるほど退職金に関しては税金を掛けないようにしてある仕組みとなっています。ただ、中途退職、中途入社及び複数転職がもはや当たり前になっている現状では、現行制度がうまく対応できていないと言われてきてもうだいぶ経ったように思います。 5「相続税関係は・・?」 現在、5千万円に法定相続人1人当たり1千万円を加えた額が、相続税の基礎控除(いわゆる非課税枠)として一律に適用されていますが、この引き下げが提案されているようです。これについては地価がバブル期以前の水準まで低下していることと、相続人が多いほど基礎控除額が多くなることなどから提案されているようです。 確かにバブルの頃は土地の価格が非常に高かったので急激な負担を防止する意味で基礎控除額等を上げたけれども・・・それが落ち付いてきたので元に下げようというのでしょうか? ちなみに基礎控除額の5,000万円の部分だけの改正の変遷を見ると・・・過去に1番近い改正があったのが平成4年に4,800万円→今の5,000万円になっています。その前の改正だと昭和63年に4,000万円→4,800万円になっています。 (バブル経済の直前後の頃が4,000万円だったので・・・またその位まで下がるのでしょうか?)以上・・・あくまでも答申の中で話題になりそうな項目を私が勝手にいくつかピックアップしてみました。勿論、そのすべてが12月の中旬に発表される税制改正大綱に反映されるかどうかは分かりませんが、大きな流れであることは間違いないでしょう。 (追伸) 法人減税・・・個人増税・・・???羽田晋朗