「政治資金監査」のお話
たまには真面目に税理士としての仕事の話を書きましょう。先日たまたま政治資金適正化委員会の委員をしている業界での先輩(日銀総裁同様の国会承認人事だったそうです。不同意にはならなかったんですね。)から「政治資金監査」に関する最近の動向を聞く機会があり、私なりに少し調べてみました。平成19年12月に政治資金規正法が改正され、平成21年1月1日から始める年度から国会議員関係政治団体の収支報告書に登録政治資金監査人による「政治資金監査」が必要となりました。お水の値段が高いの安いの、事務所家賃が高いの安いのというマスコミでも話題になった国会議員の政治資金の使い方に関する疑惑から、より透明性の高い収支報告をという趣旨で法改正がなされたようです。そしてこの登録政治資金監査人には弁護士、公認会計士そして税理士であって、政治資金適正化委員会が行う「政治資金監査」に関する研修を修了した者が就任できることになりました。日本の国会議員の定数は衆議院480人、参議院242人の合計722人で、聞いたところでは議員一人が最低3つ以上の政治団体を持っているとのことですから、単純に3倍でも2,166団体。また現職だけでなく候補者の政治団体も対象ですから、当選倍率3倍と見れば約6,500団体が「政治資金監査」の対象となります。総務省ではだいたい一人の登録政治資金監査人が受け持てる政治団体は3つ4つくらいらしいので、この制度がきちんと成り立つためには1,600人から2,000人の登録政治資金監査人が必要ということになります。制度開始が前述の通り平成21年1月1日から始める年度から制度が始まるため、登録政治資金監査人の登録申請手続きは今年の夏以降秋あたりに本格化するようです。税理士としても新たな社会貢献の機会ですから、業界全体としてきちんとした対応が必要だろうと思っています。ところが総論賛成ではあっても、具体的な仕事の中身となると難しいようです。政治資金規正法によれば、登録政治資金監査人の報告書には、1.会計帳簿、明細書、領収書等、領収書等を徴し難かつた支出の明細書等及び振込明細書が保存されていること。 2.会計帳簿には当該国会議員関係政治団体に係るその年における支出の状況が記載されており、かつ、当該国会議員関係政治団体の会計責任者が当該会計帳簿を備えていること。 3.収支報告書に会計帳簿、明細書、領収書等、領収書等を徴し難かつた支出の明細書等及び振込明細書に基づいて支出の状況が表示されていること。 4.領収書等を徴し難かつた支出の明細書等は、会計帳簿に基づいて記載されていること。 を記載することとなっています。この制度の主目的が収支報告書、会計帳簿、領収書等の照合・検算を行い、その作成の正確性を担保することであるため、あくまでも支出の事実を確認するだけで、領収書の偽造の有無や使途についての妥当性は検証しません。また支出の適法性を判断するものではないことはもちろん、(NHKの土曜ドラマ「監査法人」で若い二人がやっているような)財務諸表監査では必須の手続きである現金・有価証券等の実在性に関する手続などはしないこととなっているようです。このようなことから財務諸表監査や会社法の監査役監査と明確に区別するため、「政治資金監査」という6文字が固定した一体の言葉として定義されているとのことでした(そのためここまであえてくどくても「政治資金監査」とカッコ付で記載させていただきました。)本来は「監査」という言葉は避けたかったらしいのですが、「調査」は受ける側から嫌がられるでしょうし、「検算」では弱いですもんね。確かに財務諸表監査や会社法の監査役監査のように支出の妥当性に関して意見表明しろと言われても、その水の単価が社会通念上高いか安いかは個人の趣味趣向にもよりますから、後から「自分の社会通念では、その水の単価は高いぞ」と訴えられてしまう可能性を考えると軽々しく「その金額で妥当だ」とは言えませんよね。また支出の適法性に関して意見表明しろと言われても、現時点では「政治資金監査」の手続きには支出の相手方に対する確認や呈示された領収証の真偽の調査等は含まれないと考えられているようですから、領収証が偽造されていないことを検証できない以上、これも軽々しく「その支出は適法だった」とも言えませんよね。ただこの制度の目的、範囲や限界を国民に広く理解していただけるように十分なアナウンスをして、国民の期待とのギャップがないようにしなければ、「登録政治資金監査人制度は無意味ではないか」という厳しい批判が続出することでしょう。しかし政治資金の透明化をはかるという趣旨を一歩でも進めていくために全国で1,600人から2,000人の登録政治資金監査人が必要という現実を考えれば、税理士業界がひるむわけにはいかないはずです。政治資金適正化委員会には池田日税連会長も委員として参加なされていますから、より国民の期待に応えられて、かつ、税理士会の会員がいわれのない責任追及の矢面に立たないですむような制度構築を考えていただきたいものです。田中 大貴