天童荒太『悼む人』を読んで
昔、『男はつらいよ』シリーズを見つづけていたことがある。 寅さんはご存知フーテンで土地土地で的屋をしながら、旅を続け、その土地土地で恋に落ち、恋に破れて柴又に帰ってくる。 よくまぁ失恋を繰り返すなぁと思ったけれど、寅さんの商売についてはちょっと感心した。 確かにこれだったら旅してても困らないだろうなぁと納得。 だって売り口上うまいんだものねぇ~♪ さて、直木賞受賞作『悼む人』を読んだ。 聖人君主としてではなく、普通の心痛める若者がどうして『悼む人』になったのか。 読みすすめていくと、その過程がよくわかるようになっている。 死者を悼むために3つの決まりごとが残った。 誰を愛し、誰に愛され、そしてどんなことをして人に感謝されたのか。 どうしてその3つが決まり事になったかもうまく説明されている。 悼む人の「悼む」という行為はしつづけることはとても難しいのだけど、誰でもちょっとだけなら出来そうな行為。 そういうのがいい。 そしてそういうのに普遍性はやどる。 この本の中では少なくとも2人が悼む行為を受け継いでいく。 作者はこの「悼む」という行為であと2本くらい続編書けるのではというくらい面白い設定だった。 ただ、ひとつだけ気になったことがある。 物語は悼む人・坂築静人が悼む行為をはじめてから5年経過しているという設定。 悼む旅を続ける蓄えが10年分あるということだが、その蓄えはあと5年で確実に尽きる。 その後、どうやって旅をつづけていくのか。 また働きにでるというのも、なんとなくこの話の雰囲気だと主人公も悩みそう。 そのへんのうまい説得力が加味されていたら、もっとこの話は完成したものになったろうに。 寅さんのような人が現れ、そのあたりのことを伝授してくれたら、この物語は・・・・ めちゃくちゃになっただろうな。 まだ未読の方いらっしゃいましたら、ぜひどうぞ♪