テーマ:花に学ぶ(487)
カテゴリ:花を愛でる
以前、夜勤をしていた洋菓子会社でのこと。
会社の敷地内のあちらこちら、誰かが植えたとも思えない様な場所に テッポウユリに似た白いユリが咲いていた。 同僚のKさんが花が終わってできた蒴果を いくつかもぎ取って小袋に入れると 「家の庭に植えて白ユリでいっぱいにしようと思うんだ~」 なんてこと言っていたのだけれど Kさん曰く 「種でもむかごでも花を咲かせることはできるのよ」 と、きたもんで、 当時の私はユリは球根でしか咲かないものだと思っていたので ちょいと驚いたことがある。 あれから十数年・・・ Kさんは庭いっぱいにあの白いユリを咲かせることができたのだろうか・・・ テッポウユリ 「白く咲くユリはテッポウユリ」 っていうのを誰に教えてもらったのか、祖母か生け花の先生か だいぶ前から知ってはいた。 群馬に里帰りする時は途中の道の駅で 墓前と仏前に供える為の花束を買ったもので。 キクやリンドウの他に、凛とした白いユリが1本入るだけで ちょいと華やかに見える。 ご近所のお庭にも6月のこの日綺麗に咲いていたのはテッポウユリ。 テッポウユリとは 九州南部から沖縄にかけて分布する日本固有のユリで 開花期は4~6月 草丈70~100cm程、葉は肉厚で葉幅が3cmほどあり幅広 花は純白で甘い芳香のある横向きでラッパ状 花長は 10~15 cm、直径 5 cm程 しかし、不思議なことに花屋でしか見ることがなかったはずの 白いユリが、ココ十数年の間に そこここに咲く姿を見かける様になった。 山の斜面、民家の庭、道路端、公園の植え込みトカトカ・・・ 1本数百円したテッポウユリが、有難みも無くなるかの様に そ~んな場所に咲くワケないか・・・ 見ればあのテッポウユリとはちょいと様子が違う。 昔と違って今はナンでも教えてくれるネットを見れば かの白いユリの正体は・・・ タカサゴユリ(高砂百合) (2022年8月撮影) タカサゴユリは 台湾に自生するユリで開花期は8月~10月 タカサゴというのは台湾を意味する沖縄の言葉の「タカサング」による 日本には 観賞用に1924年 (大正 12年)以降導入 白くラッパ状の花の外側に紫赤色の筋が入る 花長は15~18cmほど テッポウユリに比べ細長く急につぼむ 草丈30~150cm程、葉は細く繊細で密なので 「ホソバテッポウユリ」とも呼ばれる。 タカサゴユリの原種があるという話 毎年、時期になると帯化した花がたわわと言ってしまう程に 多くの花を咲かせたニュースが流れているのを見る。 この年、我が家の近所にもこ~んな姿を見せたユリがある。 (2022年8月撮影) タカサゴユリだと思われる。 (私の知る限りでは4~5年以上ココで咲いてる) 見事、見応えあるとも言えるけれど こうまでなるとユリの花としての風情も何もあったものでなく 偶然にできてしまうものとは言え、見世物の様でちょいと残念な感じもする。 タカサゴユリは、他のユリに比べると 種でよく増えるそうで 日本産のユリが1つの実につき50~300個に対し、 タカサゴユリは1000~1500個 1つ1つの種子は軽く、風にのって散布されるという。 確かに・・・ この帯化したタカサゴユリのある家の周りのお宅に しらばっくれて咲いているタカサゴユリの姿がある。 普通の雑草と呼ばれる花なら抜いてしまうであろう 門扉脇の植え込みにあっても咲かせて貰えるのは ユリの姿をしているからの役得なのだろう。 種から発芽すると1年目で花が咲く というタカサゴユリ 私の行動半径内にはこんな場所もある。 この一帯こんな感じで・・・ タカサゴユリらしきユリの種が拡散したらしく、 常駐するシャリンバイの間に生えたススキなんぞを 押しのけて生えたい放題、咲きたい放題 そんな図々しささえ感じてしまうタカサゴユリらしきユリが 多い中、ナンか所かにちょっと雰囲気が違うユリを見つける。 赤紫のスジが無く、葉が肉厚だったり太くもなく細くもなく、 タカサゴユリらしくない。 「君の名は・・・?」ワカラン 植物が聞いて答えてくれるなら、私の日頃の悩みは解消する。 シンテッポウユリというユリがある。 タカサゴユリ(台湾原産の外来種)と テッポウユリ(在来種)を交配した園芸種(雑種)で テッポウユリは需要期のお盆の切り花には早過ぎる為 短期間で開花するタカサゴユリと 純白花のテッポウユリの特徴を併せ持ち 8月中旬に開花するように育成されたのがシンテッポウユリなのだ。 1928年(昭和3年)頃から交配を始め 1939年(昭和14年)頃、長野県の西村進氏が タカサゴユリとテッポウユリを交配させて種間雑種の育成に成功。 以後、多くの園芸品種が誕生し 総称としてシンテッポウユリと名付けられた。 (「雷山」「浅間」「乗鞍」「西村テッポウ」「オーガスタ」等々) 種をまいて1年で収穫できるシンテッポウユリは、 栽培農家にとって魅力的な品種 産業的に大量に作られたシンテッポウユリは露地で作られる その種が風に乗って各地に散逸していった ・・・という話。 高さ60㎝以下、花の外面が紫赤色、葉の幅が4~13㎜=タカサゴユリ 高さが60㎝以上、花が紫赤色を帯びない=シンテッポウユリ ・・・と推定 ともあるが、 自然交雑も起こすため、外観では分類は困難 最終的には遺伝子の検査が必要 ともある。 ●●背丈においては●● 気象条件、種子から何年目の球根か、温度状態等で変化の幅が大きい (ユリは低温の地域ほど背丈がのびるらしい) 近年、紫赤色のないタカサゴユリも存在するそうで タカサゴユリを含めてシンテッポウユリと呼ぶこともある という・・・ 要するに、移入されたタカサゴユリと 人間の都合で人工交配されたそのタカサゴユリと テッポウユリの子孫シンテッポウユリが 日本という広大な土地で野放しにされて自由交配。 いつの間にやら見た目ではどっちがどっちともつけにくいユリの花だらけ。 って・・・ことなんだろう 私が上記したタカサゴユリらしきタカサゴユリももしかしたら タカサゴユリ似のシンテッポウユリかもしれない?!・・・ そもそも・・・ ユリの類は同じ場所での生育は 連作障害(土壌病害・虫害・生理障害等による)が起きやすく 毎年見ていたのにある年を境に一つも生えてこなくなってしまうという。 そういえば、 去年土手にたくさん咲いていたことを思い出し、 タカサゴユリらしきユリの花の写真を撮影しようと翌年行けば 1本も無くなり駆除されてしまったのかとガッカリしたけれど・・・ そういう事情もあるのだと思い知らされたりもする。 長居できなくなったタカサゴユリは その1本から何百個という種を飛ばし 別の地へと移り再び花を咲かせるわけだ。 タカサゴユリは繁殖力が旺盛なことから、 近縁な在来種と交雑する可能性がある。 数種の植物病害ウイルスの宿主であることから 在来植物種に媒介するリスクも想定され 環境省の「生態系被害防止外来種リスト」において 「その他の総合対策外来種」となる・・・という。 手折ったり、根こそぎ抜いてしまうのは心痛く感じるし、 白く美しいユリの姿に心奪われない人はいないだろうが しかし、タカサゴユリとシンテッポウユリは地域によっては 同一扱いされ在来種を守る為に駆除している地域がある。 と、思えば ネット上では双方の切り花はともかく、 苗、球根、種を売買していたりもする。 現実行われていることが矛盾しているのが不思議でならない タカサゴユリ、シンテッポウユリは暖地性で、 寒冷な北海道や北東北などでは見られない・・・ なんて話もあったけれど 通販で売買されている以上、自分の側で育てようとする者がいて 温暖化が進行し続ける昨今、 タカサゴユリとシンテッポウユリが日本全国に 広がり続けて行くのが目に見える様な そんな危機感を感じずにはいられない。 (常々思うけど・・・人間てのは自らが良かれと思ってやったことで 後にあたふたする生き物だそれこそ自分達の蒔いた種って話。) (ヤマユリ 2011年2011年7月丹沢麓にて撮影) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023年08月08日 23時59分20秒
[花を愛でる] カテゴリの最新記事
|
|