ロドリゲスとらのこども・超克編

レストランの真ん中は、３階分ぶちぬいた高い天井。
その中ほどには、ぶどうの房のようなシャンデリアが白く輝いている。

エントランスでウェートレスに迎えられ、ぼくはシャンデリアの下を通って
窓側の席に案内された。彼女の服は、黒と白のストライプのシャツ、ブラックのエプロン。
胸元にはかわいらしい蝶ネクタイがある。髪はまとめられ、スチュワーデスのように
まとめてあり、清潔感があった。

席について、メニューをもらう。
ビールを頼み、担仔麺（タンツー麺）、ナスのＸＯ醤炒め、マンゴープリンを頼む。

ウェートレスの彼女が来た。ビールを持っている。
グラスに注ぐ。泡がいっぱいたつ。へたくそな注ぎ方だなあと思う。

見渡すと、アベックが多い。若い素敵なアベックもおり、
年配の素敵なご夫婦もいる。

店の中の柱が、鏡張りになっているから角のほうのアベックの表情がよく見える。
ワインを片手に、静かに笑っている。食も、表情も、満ち足りている。

外は庭園になっていて、ライトアップされている。
グリーンの照明に照らされて、元々緑色の芝生や、植え込みがますます冴えた緑色。
庭園というより、未来の世界みたいだ。現実世界とは思えない。

クッキーと、タンコンをつまみながら、ビールを飲む。
ようやく料理が来た。

マンゴープリンだ。
最初にデザートが来てどうするの？と思った。なぜか、彼女も笑ってる。
蜜の入った牛乳に細かくカットしたスイカを乗せ、その上にマンゴープリンが鎮座して
プリプリッとゆれて、こちらを見ている。

とりあえず、揺れているプリンをぱくっと食べる。２口、３口。

次に、担仔麺（タンツー麺）が来た。彼女はまた笑ってる。
もうひとりのウェートレスも、こちらをちらちら見ている。

「シャウチェ、ビーチュ。」（小姐、碑酒（ビーチュ））
彼女が来て、ビールを注ぐ。泡がいっぱい立つ。笑って去っていく。

ぼくが来たのが遅い時間だったから、
他の客はどんどん帰っていく。

彼女たちは、皿を下げ、テーブルクロスを交換する。
使い終わったクロスは、くるくるっと手前から、右から、左からまるめていく。

新しいクロスを、テーブルに広げる。
ある程度広げたら、手前に４，５回折り取って、バンっと投げる。
テーブルの向こう側にうまく垂れたら、手前に引く。

左右の折り目と、テーブルのバランスを見る。しわをきれいに伸ばして出来上がり。
出来上がると、こっちを見る。こっちが見ているから、こっちを見るんだろう。

目が合う、笑う。音を立てずに拍手する。また笑う。

食事が進み、碑酒（ビーチュ）も、担仔麺（タンツー麺）も食べ終わった。

そこでやっと、ナスのＸＯ醤炒めが来た。
まるっきり順序が逆だようなあと思う。彼女もそう思ってか、くくくっと笑う。

仕方がない。ナスだけを食べる。
箸で取ろうとするが取れない。大きいナスのまま、切れてないのだ。
テーブルには、箸だけしかない。困ったなあと思いつつ、箸でがんばる。

ダメじゃん、と思っていると、
さっきの彼女がまた来た。手にナイフとフォークを持っている。

ナスを食べやすいサイズに切ってくれる。
一つ目を切り終え、手前の二つ目に入る。ぼくの肩口のすぐ横に彼女の顔がある。
気が付いて、「イヤンっ」って言う。こっちを見て微笑む。
笑顔に八重歯がこぼれる。笑顔まで約１０センチ。

ナスに取り掛かる。ナスだけを食べ続ける。
ＢＧＭは、チャングムのテーマソングが流れている。
「オナラ、オナラ、ララララ～、、、」食事に不思議と合うなあと思いつつ食す。

注）（来てください、来てください、、、という意味）と韓国の友人が言っていた。

その間にも彼女たちの懸命な片付けは続いている。
レストランは晩餐タイムが終り、ナイトタイムの営業に移っている。

あの彼女が大きな皿を２０枚ほど持って、運んでいる。
また目が会う。ぼくは重そうに皿を運んでいる真似をする。
向こうのほうで、笑っている。こっちのウェートレスも顔を見合わせ笑う。

あっちの子、こっちの子、そして僕が順番に笑う。

また、あの彼女が皿を運ぶ。またこっちを見る。
真似をする。笑う。こっちの子もそれを見て笑う。そして僕を見て微笑む。

あの彼女は店のなかをかけってく。



シャウチェ、マイタン。（小姐、勘定。）

彼女が笑顔で何かを言う。
（「おいしかったですか？おりがとうございます。また来てくださいね。」）
と言っているんだろうと思う。

そう思いつつ帰る。エントランスの左右の木々には、小さいランプが点っている。
そこを一緒に歩き、表まで見送られつつ帰る。
小さく手をふる。また笑っている。

ひとりぼっちのレストラン。
異国のレストラン。

言葉がわからないから、会話もない。
でも、会話している気がする。

不思議な、不思議なぼくの超能力。
でも、言葉の通じない国でしか、発揮されない。日本ではなぜかダメなんだよな？！

おわり。


ＰＳ　「シャウチェ。ニー　ジャオ　シェンマ？」くらい聞けばよかった。