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ロドリゲスとらのこども・超克編

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2008.11.12
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目で見えないもの

「星の王子さま」は1943年にアメリカで出版された。原題は「ル・プティ・プランス」(小さな王子さま)だが、内藤濯さんはこれを「星の王子さま」と訳した。なかなかの名訳だ。

 サン・テグジュペリは前書きで、「おとなは子どもだった。しかしそのことを忘れずにいるおとなはいくらもいない」と書いている。彼がこの本を書いていたのは、第二次大戦のさなかだった。祖国フランスがナチスに蹂躙される悲惨な戦争のまっただなかだった。

 大人たちが始めた戦争で、子供たちが死んでいく。そして、大人たちの中に生きていた「子どもの心」も死んでいった。童心を失い、美しいものにたいする感動を失った大人たちは、「ほんとうに大切なもの」を見失って、お互いを殺し合う戦争に我を忘れている。そうした危機感が、彼にこのような童話を書かせたのではないだろうか。

「きみのすんでいるとこの人たちったら、おなじ一つの庭で、バラの花を五千も作っているけど、自分がなにをほしいのか、わからずにいるんだ。だけど、さがしているものは、たったひとつのバラのなかにだって、すこしの水にだって、あるんだがなあ・・・。だけど、目ではなにも見えないよ。心でさがさないとね」

 作家の三田誠広さんは、「星の王子さまの恋愛論」という本の中で、「作品の中の設定では、王子さま小さなプラネットからきたことになっていますが、作者のサン・テグジュペリの心の中に、この小さな少年のイメージが宿ったのは、作者自身の過去の記憶に出発点があります。星の王子さまは作者の過去からきた。少年時代の記憶の中から、この少年はやってきたのです」と書いている。

 星の王子さまは、幼い頃の作者の化身であり、この童話そのものが、彼自身の少年時代との対話そのものだともいえる。私たちも又、「星の王子さま」を読みながら、自分自身の少年時代と対話することになる。そして、人生に対する大切な認識を、かっての自分自身から教えられるのだ。

 王子さまは、小さな星にすんでいた頃、その星の上ですこしずつ椅子をずらしながら、一日に43回も太陽が沈むのを眺めたことがあるという。こうした淋しさを、だれしも子どもの頃に一度は経験したのではなかろうか。

 ところで、この本を書いた1943年に、彼は43歳の誕生日を迎えている。そして、この本を書き上げた後、彼は空軍パイロットとして戦場に赴き、翌年の1944年7月31日に、地中海の戦線で愛機とともに姿を消した。

「星の王子さま」は戦後1946年にサン・テグジュペリの遺作として、パリのゲリマール社から改めて刊行された。そして、今では世界中の子どもと大人がこの本を自国語の翻訳で読んでいる。この半世紀に、聖書についで、世界でもっとも多く読まれた本ではないかと言われている。

 ところで、「南方郵便機」「夜間飛行」「人間の土地」の著者として、アメリカでも評判の人気作家になっていたサン・テグジュペリが、なぜ作家としての地位や名声を捨てて、戦地におもむいたのだろう。

「ぼくには飢えている者たちから遠くはなれていることが耐えられない。ぼくの良心と折り合いをつける方法はひとつしか知らない。それはできるかぎり苦しむことだ。・・・ぼくは死ぬために出発するのではない。苦しむため、そうやって同胞と通じ合うために出発するのだ。ぼくは殺されることは望んでいないが、そんなふうにして眠りに入ることはよろこんで受け入れる」(山崎庸一朗訳「サン・テグジュペリ著作集」「戦時の記録」みすず書房)

 彼が「星の王子さま」を書き上げた後、フランスにいる妻コンスエロにあてて書いた手紙の一節である。結局彼は暢気で贅沢なアメリカ人たちのなかで、居場所を見つけられなかった。「星の王子さま」の著者は、ナチスドイツが祖国フランスを蹂躙するなか、人々の美しい心や生活が滅び去っていくのを、もはや座視することが出来なかったのだ。(橋本裕さんのひとりごとより)

(参考文献) 「星の王子さま」サン・テグジュペリ著、内藤濯訳 岩浪書店
       「星の王子さまの恋愛論」 三田誠広著 日本経済新聞社
       「サン・テグジュペリの宇宙」 畑山博著 PHP新書





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最終更新日  2008.11.12 10:48:53


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