子供はじょうずにウソをつく
子供が「規則を守る」ことについて,もう少し書いてみます.今回の話題は,ちょっと不快に思われる方もいるかもしれません.あえて賛同を求めませんが,こういう見方もあることを知っておいてください. 野鳥は実際に育てられるより1つ多くの卵を産むそうです.つまり雛(ひな)のうち1羽は巣立ちに至る前に,ほぼ確実に死んでしまう.これは親鳥にしてみれば,雛の一部が失われるといったハプニングに対する「保険」のようなものかもしれません.子育てが順調に進んだ場合,餌を最ももらえなかった1羽は成長が遅れ,やがて死ぬことになる.だから雛にしてみれば,親の寵愛を少しでも多く受けることが,生存のため絶対に必要となる. 鳥の給餌は雛が発する単純な信号に刺激されて起るのだ.「寵愛」などと人間臭い言葉は不適切だ,などというツッコミは勘弁してください.私はここで鳥と霊長類の違いについて長々と議論するつもりはありません. そこで話はしこたま飛躍します.動物でも人間でもそうですが,子供は親なり先生なりの庇護・寵愛を求めるものです.それは野鳥の場合ほど露骨にではないにせよ,一般に庇護・寵愛があった方が子供は生存確率が高まり,社会的にも有利な立場に立ちやすいからです.子供がそう考えているとか,それが良いとか悪いとかいうことではなく,遺伝子にそのように刷り込まれているわけです.われわれが子供を見て「かわいい」と感じるのも,そういう遺伝子のなせる業です. つまり子供が,親や年長者の庇護・寵愛を受けやすい性質(「かわいい」こととか)を発達させているのは,生存競争の中で生き残り,より優位に立つための「戦略」なのです.進化の結果として,多くの動物の子供は,そういう性質を発達させている. 動物は「繁殖成功度」(reproductive success)を上げるために,さまざまなウソで身を固めます.青年期の男性は生理学的に必要とされる以上にゴツゴツしているし,女性は必要以上にふくよかにできているでしょう.この必要「以上」の部分がウソ(誇大宣伝)です.そういう事情をわかっていても,人間は性的魅力に逆らえないものです.ウソという言葉を,そのようにご理解ください. 誤解を恐れずに言えば,子供の「かわいさ」は一種のウソなのです.生物学的存在である大人は,こういうウソに抗しきれないものです.だから親はつい子供の要求に従ってしまいます.子供がかわいいから,というだけでは教育者は勤まらないと,私は思います. 話をもとへ.子供のこういう戦略は,見かけの「かわいさ」だけでなく,行動にも表われます.たとえば,親や先生が自分に何を求めているか,何をすれば,質問にどう答えれば,親や先生を喜ばすことになるか,そういう事情を察知し,相手を喜ばすような行動をとります.何度も書くけど,これは子供の生き残り戦略なのです.「優等生」が上手にウソをつくのは,そういう生き残り戦略の1つです. 子供はウソのかたまりです.善悪の問題ではなく,生存の必要上そのように生まれついています.だからこそ「ウソをついてはいけない」という教育が必要になります. 子供が「規則を守る」理由はいろいろあります.しかし,それらの背景にある「生き残りのためのウソ」を理解する冷徹さも,教育者に求められることです.規則を守っている=規範意識が高い,とイコールで簡単に結んでしまうような文科省の発想は,あまりにお粗末というべきでしょう.