レディファーストと大東亜共栄圏
欧米にはレディファーストという習慣がある.ドアの前に来ると男性がドアを開けて女性を先に通す.先生が講演や講義を始めるとき,政治家が演説を始めるとき,日本語なら「皆さん」と言うところを英語では「Ladies and gentlemen!」と呼びかける.あくまでレディが先である.手紙の宛名もそうだ.たとえば日本の太郎さん花子さん夫婦と英国のJohn さん Mary さん夫婦とが手紙をやり取りするとき,日本夫婦から英国夫婦への手紙は,Dear John and Mary, というように始める人が多いと思う.英国夫婦から日本夫婦への手紙は,Dear Hanako and Taro, となる.女性のほうを先に置く習慣がある. 大東亜共栄圏のことを書くつもりだった.その昔,日本人が東アジア各国に侵入しておいてから,日本が支配するアジアを大東亜共栄圏と呼んでゴマかした.「ボクたちみんな友達だもんね」というわけだ.この欺瞞は日本が戦争に負けてみごとに失敗したが,今も堂々とそのテの欺瞞を通している国もある.かつての大英帝国,いわゆる連合王国である.連合王国は省略せずに書くと The United Kingdom of Northern Ireland and Great Britain(北アイルランドと大ブリテンの連合王国)である.この呼称にレディファーストと同質の欺瞞が見える.北アイルランドと大ブリテン島を比べれば,後者の方がはるかに大きいし,この連合の中心はもちろんブリテン島にある. 昔から偽善は英国紳士の得意ワザということになっている.ウイスキーを Scottish Whiskey でなく Scotch Whisky と(eを抜いて形容詞まで変えて)呼んでブランド化し,英王室の皇太子をエジンバラ公などと呼んでスコットランド人の自尊心をくすぐる.さらに難関の北アイルランドは,連合王国の呼称でしっかりサービスして懐柔する. 話はいきなりジャンプします.せーの. 最近よく聞く言葉に「自然との共生」というのがある.共生とは読んで字のごとく「共に生きる」ことだ.その内実はどうだろう.人間は自然を改変し,ほとんど破壊し尽くしている.事ここに至ってあげくに「共生」って一体何なのさ,と私は思う.共生という言葉の裏に,大東亜共栄圏や連合王国と同じような欺瞞が透けて見える. 自然保護という言葉がある.自然を「保護」するというと,いかにも傲慢である.たしかにそういう響きがある.「自然との共生」と言えば傲慢さは感じられなくなる.しかし友好的に見える言葉の裏に,私はどうしても欺瞞を感じ取ってしまうのだ.