龍河洞爆破計画
山内浩先生が旧制中学校の生徒たちと一緒に探検した龍河洞は,その後,昭和9年に国の天然記念物・史跡に指定された.そして話は一気に昭和22年(1947年)にワープする.この年,龍河洞に住むコウモリの糞を採掘しようという人が出現したのだ. コウモリに限らないけれど,動物の糞の堆積物(グアノ)は窒素をたくさん含んでいて,昔は肥料として珍重されていた.関係ないけど DNA を構成する4種類の塩基はA, T, G, C と略記される.このうちGはグアニン.海鳥のグアノから発見された物質なので,この名がついたのだとか. コウモリの糞を採掘しようとしたのは依光(よりみつ)さん,という人だ.前回ふれたように物部川かいわいに多い苗字である.この依光さんは別に悪いことをしようとしていた訳ではない.龍河洞の中にはグアノが推定400トンあるから,それを採掘して食糧増産に役立て,国民を飢餓から救おうという,たいへん立派な動機があった.それに大阪鉱山監督局から正式の許可も取っていた.ただ,この人は龍河洞の価値をおそらく理解していなかったのだろう.洞内にダイナマイトを仕掛けて,この鍾乳洞を爆破してしまおうという採掘計画だった. ふつうに考えれば,天然記念物なのに爆破計画が許可されるなど,あって良い訳がない.しかし現実に「天然記念物保護法」は保護じゃなくて反古にされ,「資源開発法」のほうが大手を振ってまかり通っていた訳だ.どんな立派な制度でも運用次第でいくらでも空文化できるという良い例かもしれない.それは昔の話だ,と笑ってられるかな? とにかくこの時は,現地の龍河洞保勝会や県天然記念物委員らは猛反対.これに対し開発側は,もう明日にでも爆破するから,怪我したくなければ洞穴に近寄るな,といった姿勢で,たいへんに紛糾した.あげく(途中経過を完全省略します)結局のところ,新しく県知事に着任した桃井直美さんが「採掘は不可」の姿勢を明らかにして一件落着したらしい. ところで, クモを捕まえて麻酔し,そこに産卵するベッコウバチという蜂がいる.そのベッコウバチの一種でスギハラベッコウというのがいる.「小学館の図鑑NEO昆虫」という子供向け図鑑にも載っている.家屋内で壁にベタッとはり付いている,あの巨大なアシダカグモを捕まえるという黒い大きなベッコウバチである.このスギハラベッコウという名前は北海道大学でハチを研究されていた杉原勇三さんにちなむものである. 上記の龍河洞爆破計画の話は,その杉原さんからの情報である.ふるさと高知に帰られてから杉原さんは高知県の天然記念物委員をされていたらしい.戦後の一億総飢餓の時期に危機に陥ったものとして,龍河洞のほかに,高知城の掘が埋め立てられようとしたこと,横倉山の杉林が伐採されようとしたこと,などもあるという.これらの危機に直面し,寝食を忘れ,必死になって関係者と交渉した人々がいたわけだ. 龍河洞や高知城は今も高知県観光の重要アイテムである.横倉山は牧野富太郎のフィールドとして有名であり,その杉林は知る人ぞ知るムササビ観察のメッカで,時にはヤイロチョウやアカショウビンといった野鳥にも会える.杉原さんほか保存のため奔走された方々には,よくぞ破壊から守ってくださったと,ひたすら感謝するのみである. いま高知市に新堀川がある.この川を覆って道路にする工事が進んでいる.本当に必要な工事なのか,この川を視界から消し去ることの代価をどう考えるのか,慎重に考えて欲しいものである. ということで,最後は別のブログのテーマにカブってしまいました.今日はこれでおしまい.