ミクロ生物学のすすめ
きょうは自然史博物館について書きます. (<おおっ,珍しい) 岩国市に「ミクロ生物館」というのがある.http://shiokaze-kouen.net/micro もとは町立だったのが,町村合併で岩国市に併合され,今は岩国市立ミクロ生物館となっている.ここは原生生物を扱っている博物館である.いや,博物館というより,水族館というべきか.いろいろな原生生物が生きたままキープされていると思う(行ったことがないので本当は知らない).私はこの施設に注目している. 原生生物とはどういう生物か? 有名どころの名を挙げてみると:1.ゾウリムシ,アメーバ,ミドリムシ,・・・2.夜光虫,放散虫,有孔虫,・・・3.トリパノソーマ,マラリア,・・・4.粘菌,ツボカビ,・・・5.クロレラ,珪藻,コンブ,・・・などなど.じつに多様多彩なグループである.古い呼び名で言うと,原生動物(1~3)と藻類(4,5)とをまとめたような形になっている.多細胞のものもあるが,多くは単細胞の生物である.なお,カビやキノコは菌類といって,原生生物とは違うグループになります.粘菌やツボカビは「菌類」ではないらしい. 原生生物には淡水産のものや海産のものがあり,健康食品もあり,病原体もある.化石マニアにお馴染みのフズリナ(紡錘虫)は有孔虫の1つである.熱帯の白い砂浜を構成する「星の砂」は有孔虫の死骸.シオマネキの食餌や縄張りアユが食べる「コケ」は珪藻. こうして見ると,原生生物はけっこう重要なグループである.そして自然界のさまざまな循環やバランスの重要な一部をなしている.なのに一般になじみが薄く,話題になることも少ない. 岩国の「ミクロ生物館」は原生生物に特化した博物館であろう.しかし「ミクロ生物」という呼称は,もっと広い範囲の生物を含めることを可能にしている.観察に顕微鏡(拡大率40~1,000倍)か,少なくとも実体顕微鏡(拡大率7~40倍)の助けを必要とする程度の小さな生物,ぐらいに考えてもよい. だから原生生物でなくても「ミクロ生物」として扱えそうなものは多い.淡水産のものではヒドラ,プラナリア,ミジンコなどを含めることができる.陸生のものでは多くの土壌生物なども含めてよいかもしれない.海産生物まで含めると,膨大な種類数になると思う. そういう「ミクロ生物」を自然史博物館の1つの柱にすえるのは,なかなか名案だと思う. そもそも博物館には専門家(学芸員)を置く必要がある.専門家を多数かかえている本格的な博物館もあるが,地方自治体レベルの自然史博物館では,専門家の数も限られてしまうだろう.「1つの柱」というのは,その限られた専門家の1人として,「ミクロ生物」の研究者を置くということだ. なぜ「ミクロ生物」か? まず「研究」について. 研究というとすぐ「国際レベルの」という語と結びつけたがる人たちがいる.日本人がものごとの良さを質ではなく高低(レベル)で測りたがる性向は,文科省の長年にわたる努力の「成果」だろう.それはそれとして・・・ 「国際レベルの」研究には,ふつうカネがかかる.しかし,ミクロ生物を扱うならば,生物の種類や研究テーマによっては,あまりカネをかけないで「国際レベルの」研究を行うことも可能である.もちろん国際レベルでない,地方独自の必要性に対応できるような研究も可能である. 次に「教育」について.ミクロ生物は学校教育があまりカバーしてない生物群であり,博物館でもなければ一般になじみが薄い.しかも知識として重要でないとは言い難い.こういう分野でこそ,博物館の博物館たるゆえんが最大限に生かされると思う. そして,ミクロ生物を私が推賞する最大の理由は,カネと労力とスペースが非常に節約できる点である.たとえば水族館で魚を展示しようとすると,1種につき60cmの水槽1個ぐらいは必要だろう.ミクロ生物,たとえばゾウリムシなら,コップ1杯の水で事足りる. 限られたカネ,労力,スペースに対応できて,研究による貢献もできて,日本の学校や大学であまりカバーされてない分野であり,自然や環境を理解するうえで軽視できない生物群である「ミクロ生物」を,自然史博物館の1つの柱に据えることをお奨めします.追. 代表的なミクロ生物であるアメーバの動画を,http://briefcase.yahoo.co.jp/tosana06に置いてあります.追. 泡瀬干潟を守ろう!という署名をやっています.皆さんご協力を. 詳しくは,さめさんのブログhttp://shark.ti-da.net/e2290930.htmlをご参照ください.