抵抗のビール
前回はラガービールについてウィキをちょこっと見て,知ったようなことを書いた.しかし,そのあと英語のウィキを参照するに及んで,頭をかかえてしまった.とても一筋縄で行かない.言葉を定義することが,いかに難しいものであるかを痛感しました.私の不理解からくる間違いなどもあると思う.しかし,いろいろ訂正して行ったら,多分ますます混乱すると思う. というわけで,前回にめげず今回もビールについて書きます. ビールにはエールとラガーがある.当該ビールがどちらに属するかは,酵母菌の種類,発酵の温度と日数,酵母菌が容器内の水面で増殖するか水底で増殖するか,によって決まる.という話を前回は紹介した.しかし一方でエールという語は,ビールと違う飲み物という話もある. 次もウィキからの引用です.- ホップが15世紀にオランダからイングランドに伝わるまで、「エール」という名前はホップが加えられていない醸造酒のみに使われていた。「ビール」という名称はホップを加えての醸造を示していたが。この区別はもはや使われていない。 さて,アイルランドにギネスというビールがあります.黒いビール(スタウト)の1銘柄ですが,シェアはアイルランドではたぶん No.1で,他銘柄(マーフィーズなど)を大きく引き離しているでしょう(統計データを持ってないのがツラいけど).わたし的にはギネスの古風でちょっとthick というか,ねっとり感も好きだけど.マーフィーズのさらさら感というか,モダンな感じも捨てがたい. 話をもとへ. そのギネスがアイルランドでどうして普及したか,という物語.むかしイギリスはアイルランドを支配下に置いた.そして本国の産業を保護するため,アイルランドの優秀な産業を禁止した. たとえば毛織物産業は今も英国で盛んですが,それは競争相手であった(強力な競争相手になる可能性があった?)アイルランドの毛織物産業を禁止したからだ,という話を聞いたことがある.話の信ぴょう性については?ですが,確かにアイルランドには毛糸で編んだセーターとかはあるけれど,毛織物はない. ビールについても,毛織物と同じようなお話があります.イギリス政府はアイルランドでのビール造りを禁止した.飲んべのアイルランド人が酒なしでやって行ける訳もなく,アイルランドではビールでなくて,その模造品が普及した.それがギネスである. この話の出典を思い出せません.とにかくアイルランド人がやったことは,ホップを入れないで飲めるビールを造ったことだったそうです.「ホップが入ってないのだから,これはビールじゃない」というのがアイルランド人の言い分だった.かくしてギネスは「抵抗のビール」となった. なお,初期のギネスについては知りませんが,現在のギネスには,しっかりホップが入っています.とにかく,この話も少し距離を置いて見たほうが良いかもしれない. 釈然としないまま探してみたら,ウィキペディアで, Beer in Ireland の項に,次の説明を見つけました:Historically Ireland produced ale, without the use of hops as these are not native to Ireland. Even in the late 18th century hops were not used, when almost all other countries had adopted the use of them as an ingredient to preserve and flavour their beer. Most beer was imported from England, Scotland and Wales in the eighteenth century.訳: 歴史的にはアイルランドはエールを造っていた.ホップはアイルランドに自生してないので使わなかった.18世紀後期には他のほとんどの国がビールの保存剤として,また香りをつける添加物として,ホップを使用していたが,そこに至っても(アイルランドでは)ホップは使われなかった.18世紀にはほとんどの(ホップの入った)ビールはイングランド,スコットランド,ウェールズから輸入されていた.However in 1756 Arthur Guinness set up a small brewery, moving to Dublin in 1759. Having initially brewed bitter, he switched to producing porter, which was a style from London. Unlike the London beers he used some unmalted roasted barley, as this avoided tax (which was on malted barley only), making it more bitter and dry.訳: しかし1756年,アーサー・ギネスが,小さな醸造所を始め,1759年にはダブリンに移った.最初は bitter を醸造したが,ロンドン風の porter の生産に切り替えた.ロンドンのビールと違って,彼は税金(発芽大麦にのみ課税された)を免れるため,発芽してない大麦を焙煎して使い,(ビールを)苦くドライにした. ですと. ずいぶん話が違うじゃないですか.ホップを入れなかったのは手近になかったから? 麦芽を使わなかったのは税金逃れのため? どこが抵抗のビールだよ. などとボヤきつつ,とりあえず今夜はギネスを飲むことにしようかな.