大学の法人化
科学者がウソをつくようになった理由として,科学者を取り巻く「環境」の変化に前回は言及した.この点をもう少し書いてみよう. 正確な数を知らないけれど,かなりの数の「科学者」は大学に所属している.その科学者たちに起った大きな変化が,「国立大学の独立法人化」だった.それはどういう変化だったのか? 今年3月11日に大地震と津波があり,原発が暴走を始めた.「原発は安全」という神話が崩れ,放射能がバラ撒かれた.そしてNHKは「放射能は安全」という洗脳放送を繰り返すようになった.NHKに登場する「専門家」は異口同音にそう発言した. そういう状況下で,ネットの世界では「御用学者」という,時代錯誤とも思える語が常用されるようになった.その頃,「日刊ゲンダイ」に載った記事(4月20日)を借用する:(以下転載)・・・環境関連の学会理事がこう言う。「我々の学会はもともと『反原子力』であり、環境と共生できるエネルギーの研究が盛んでした。自然破壊のリスクがあり、厳重に管理しなければならない原子力の限界を皆が理解していたからです。ところが、小泉が打ち出した『国立大学の独立法人化』によって、この方向が一変してしまったのです」 国立大学の法人化は04年に導入された。小泉が「郵政民営化」とともに進めた肝煎り施策で、スローガンは「競争的環境の中で世界最高水準の大学を育成する」だった。「この独法化で国からの補助金が激減し、研究費が捻出できなくなった教授が続出したのです。我々の学会も数百万円あった予算がゼロになりました。仕方なく、企業からカネを集めると、電力会社の寄付がケタ違いに多かった。原子力は国家事業だから国の予算も潤沢。企画書に『原子力とクリーンエネルギー』など と書いただけでカネがどんどん出ました。こうして原子力を批判していた学者が次々に礼賛派に回り、逆に原子力を否定する論文を書いた学者は針のムシロ。学者の世界はどの分野もムラ社会だから、村八分を嫌う傾向にある。御用学者の輪はこうやって広がったのです」(前出の学会理事)(転載おわり) そう.「御用学者」は実在するのである.ネットの世界が時代錯誤なのではない.科学者を取り巻く環境が前近代的になったのだ. 研究費の問題だけではない.法人化によってタテ関係が強化され,大学の科学者はアメとムチで「管理」されるようになった.大学のトップは官僚の天降りポストとなり,事務系職員の発言力が著しく強まった.科学者は以前のように「自己保身」に無関心ではいられなくなった. 健全な科学が日本から消えた.こうして「科学者」と呼ばれる人たちが,ウソをつくようになった.