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カテゴリ:さ行の作家
東京郊外のニュータウンに突如発生した奇病は、日本脳炎と診断された。 撲滅されたはずの伝染病が今頃なぜ? 感染防止と原因究明に奔走する 市の保健センター職員たちを悩ます硬直した行政システム、 露呈する現代生活の脆さ。その間も、ウイルスは町を蝕み続ける。 世紀末の危機管理を問うパニック小説の傑作。 (「BOOK」データベースより) 初の篠田節子さん作品。かなり読みごたえがありました。 埼玉県昭川市という架空の都市が物語の舞台となっています。 昭川市の窪山という地域で、発熱・頭痛・吐き気を訴え診察を受けた患者が 次々に死亡・または重体となる事態が発生。 それらの患者は日本脳炎と判断されたが、本来の日本脳炎よりも感染力が強く、 発症率・致命率が高く、発症から重篤または死に至るまでの期間が短い。 家に閉じこもり難を逃れようとする人々。その恐怖心につけ込み、 効果のない薬を高値で売りつける者、宗教勧誘をする者。 自暴自棄になり犯罪を犯す者。絶望から、自ら命を絶つ者。 命は取り留めたものの、重度の後遺症が残った患者を抱える家族の苦悩。 じわじわ広がっていく伝染病への対応に、驚く程腰の重い役所や政府。 様々な事柄が現実味を帯びていて、背筋が寒くなりました。 篠田さんは『ヒーロー不在のパニック小説を書いてみたかった』 という思いから、この作品を書いたそうです。 確かにこの作品には、明確な『ヒーロー』の存在はありません。 メインとなるのは、小さな病院の青年医師、保健センターの若手職員、 救急診療所の年配看護師など。 取りたてて大きな特徴がある訳ではないごく普通の人々の地道な努力が、 結果として事態の収拾に結びつくという流れになっています。 全体的に淡々とした文章で描写されていて、その抑えた感じの文体が、 物語によりリアリティ感を与えているように思いました。 毒性の強い鳥インフルエンザウィルス・H5N1型などの脅威に さらされている現実を考えると、『フィクション』の一言で 片付けることのできない恐ろしさを感じる作品でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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