消失死体がまた元に戻る!? 完璧の「密室」と「アリバイ」のもとで発生する、
学生バンド“メイプル・リーフ”殺人劇ーー。「ミステリー史上に残ってしかるべき
大胆なアイデア、ミステリーの原点」と島田荘司氏が激賛。この恐るべき謎を、
あなたは解けるか? 大型新人として注目を浴びた鮮烈なデビュー作。
(本書作品紹介より)
どうやら自分の中で、ちょっとした『ミステリブーム』が来ているようでして。
今まで読んだことがなかった、歌野晶午さんにチャレンジしてみました。
「新装版」ということで今年の4月に出版されたこの作品、元々発表されたのは
1988年だそうで、読んでみると確かに、80年代の匂いを感じます。
「メイプル・リーフ」という大学生のバンドのメンバー内で起こる連続殺人事件の
話なんですが、音楽について無知な私には「???」なことばかりで・・・(笑)
それもあってか、作品を読んだ感想は「なんだか微妙・・・」な感じでした。
とても失礼な話ですが、どちらかというと私は本編より、巻末に収録されている
島田荘司さんの「推薦文」の方が興味深かったです。
20年ほど前のある日、歌野晶午さんが突然、「ファンです」と島田荘司さんの
家を尋ねてきて、「推理小説を書きたい」と言ったのが、二人の出会いだそうです。
島田さんはてっきり、推理小説家志望の青年が自分の作品を読んで欲しくて訪ねて
きたと思っていたら、「これから書きたいので、基本的なことを教えて欲しい」と。
歌野さんが島田さんに尋ねたのは、原稿用紙や筆記用具の種類、改行のしかた、
セリフはどのような書き方をするのか、など本当に基本的なことだったそうで。
島田さんは内心呆れつつ、実物を見せながらひとつひとつ質問に答えたものの、
「こんな調子で小説がかけるのだろうか?」と訝っていると、歌野さんは
「今いろいろ教えていただいたから、書けると思います」と淡々と答えたそうです。
その後すぐに、歌野さんが長編の原稿を島田さんに見せたけれど、島田さんに
簡単にトリックを見破られてしまい、ショックを受けた歌野さんは、島田さんの
前で涙を浮かべながら、グイグイと酒を煽ったそうです。
その後も島田さんと歌野さんは一緒に音楽を聞いたり、食事をしたりと交流は続き、
その間に欠点の多かった原稿も少しずつ手直しされ、とうとう『まれにみる傑作』
である『長い家の殺人』ができあがったということです。
小説を書いたこともないのに、これから書きたいから初歩的なことを教えてくれと
プロの作家の家をアポなしで訪ね、結果的に世に出せる作品を書き上げた歌野さんは
「すごい人だな~!」と思うけど、それを怒りもせずに受け入れ、あたたかく見守り
続けた島田さんは「めちゃめちゃ器の大きい人だ~」とちょっと感動しちゃいました。
島田さんは歌野さんだけでなく、綾辻行人さん・我孫子武丸さん・法月綸太郎さんの
デビューのきっかけを作った人でもあって、若手作家に対する「大きな愛」を感じます。
本作の推薦文も、島田さんがどれだけ歌野さんの才能に惚れ込んでいるかが
ひしひしと伝わってくるような、愛情溢れるあたたかい文章でした。
残念ながらこの作品はあまり好みではなかったのですが、歌野さんの他の作品を
ぜひ読んでみたい!と思わされるような、すてきな推薦文でした。