300610 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

辞書も歩けば

辞書も歩けば

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

カレンダー

フリーページ

日記/記事の投稿

カテゴリ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

お気に入りブログ

SOHO翻訳者の仕事部屋 まな!さん
翻訳立国トラドキス… 人口500万人の国さん
遠方からの手紙 かつ7416さん
学校に殺される 真琴2115さん
Peptide Designer Bl… PeptideDesignerさん

コメント新着

shivaji03atTwitter (よしやま)@ Re:トライアルに落ちない方法(11/04) 懐かしい、です。
浪速のつっこみ男@ Re[1]:再びロシアの小噺(10/22) ほにゃさん >>その速さなら10分じゃ。 …

バックナンバー

2024年10月
2024年09月
2024年08月
2024年07月
2024年06月
2006年10月02日
XML
カテゴリ:翻訳
 ヨーロッパから帰ってきたばかりで仕事もなかったぼくを拾ってくれた翻訳会社がある。その会社の社長から教えられたことがある。

 人間というものは、目の前のものにのめりこむ瞬間、本当に好きになる瞬間がなかったらいけないんです。ヨーロッパにも絵や音楽の勉強だと言ってたくさんの人が行ってます。当然、現地のことばを覚えないといけないわけですが、たいていの人はいつの瞬間も「オレは画家だ」、「オレは音楽家」だという意識をもっていて、画家の立場として音楽家の立場として語学とどう向き合っていくかを考えてるんです。

 たとえ何の勉強に行ったにせよ、そこで語学を覚える必要が生じたら、ある瞬間は自分の目的や志しなんか忘れて、本来の目的なんかそっちのけになるくらいにのめりこまないといけないんです。地位も才能も何もない一人の人間として、現地のことばに向かい合わないといけないんです。

 そういうことができない人は語学が身につかないのはもちろんですが、自分の本業も結局はたいしたものにならないんです。

 そう言われれば思い当たることがいくつもある。

 スペインで出会った日本人はみな、目的がはっきりしているほど、スペイン語の勉強をするのをいやがっていたような節がある。少なくともできるだけ少ない労力ですませるものならすませたいと思っていたことは確かだ。

 何十通りもの活用のあるスペイン語の動詞を原形だけで押し通すフラメンコの踊り子もいた。「私、今日食べる」、「私、昨日食べる」というよう具合である。

 そこまで極端ではなくても、外国人なんだからと一定の枠を定めてしまっている者が多かった。たとえば、接続法(一言で説明できるものではないが、直接法が実数であるのに対して虚数であると考えてもらえばいい)は外国人には不要と決めてかかっている。その根拠がまるでわからない。本当に接続法を使わなくて生活に支障がないかどうかは、ある程度スペイン語のできる人間が検証していかなければ答えの出ない問題なのに、そのスペイン語がおぼつかない人間になぜそんな結論が下せるのが不思議でならない。

 現に、接続法が使えなくて通じない場面に遭遇したことはいくらでもある。外国人とスペイン人とが話をしているのを横で聞いていると、外国人が本来接続法を使うべきところを直説法で話している。ぼくには単なる文法のまちがいであることがわかるから、すぐさま修正して聞くことができるけれども、文法のことなんか頭にないスペイン人にはどうも相手の言うことが理解できないらしい。そこで、差し出がましいとは思いながら、直説法の部分を接続法に直して「この人の言いたいのはこういうことではないか」と説明すると、スペイン人が「それでわかった」と言う。そういうことはいくらでもある。

 スペイン語を勉強している日本人から接続法について質問を受けたとき、ちょっとそのことを耳にはさんだだけで、わざわざ数メートル先からやってきて「ああ、そんなもの、いらない、いらない。知らなくても通じる」と割って入ってきた画家の卵がいた。

 質問を受けたぼくも、この機会とばかりわからないところを教えてもらえると思っていた日本人も、ともに言葉なし。

 実はぼく自身も、この社長のことばでガーンと頭を殴られた気がした。

 大学時代に専攻した西洋史がまさにそうだった。もともと文学をやりたかったぼくには、「文学だけではダメ。何か社会科学をやらなきゃ」という思いがあった。かといって、経済や法学は今ひとつ味気ない。西洋史はいわば妥協の産物でもあった。西洋史で本当に勝負する気は毛頭なく、いつも西洋史から学んだことを文学に生かすことばかり考えていた。

 割って入ってきた画家の卵のことを笑う資格など、ぼくにはないのである。
 


人気ランキング青バナー←ランキングに登録しています。クリックおねがいします。







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年12月01日 00時19分17秒
コメント(0) | コメントを書く
[翻訳] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X