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カテゴリ:翻訳
 握り寿司でロシアンルーレットの真似事をする店がある。ひとつだけ、わさびのかたまりを入れてある。運悪く当たった人は必ず大粒の涙をこぼす。ぼくはルーレットなどしちめんどくさいことはせず、特別にその「当たり」だけを握ってくれるよう注文した。ゼロコンマ1秒ほどの間、わずかに涙腺がゆるんだが、かろうじて落涙を免れた。平気な顔をして、その代物を食べたのはぼくが初めてだったそうだ。


 それくらいぼくはわさびが好きで、きずし(酢さば、しめさば)も、カツオのたたきも、馬さしも、鶏のささみも、およそ生ものなら何でもわさびで食べたいと思っている。


 ただ、ぼくは同時に職人の立場に立ってモノを見る癖がある。もしもこだわりがあって出してくれていたら、ぼくなんかはとてもいやな客だろう。せっかくこの味で食べてもらおうと思っているのに、わさびを要求してくる。自分だったら、そんな客には帰ってもらう。「きずしは酢じょうゆで食べたいお客さんが多いですから」なんて、所詮客の希望次第だと言う店ではたいてい、わさびを出してもらう。たまにどうでもよくなって黙っていると、「やっぱり、わさびで食べないとおいしくない」と後悔することになる。


 そんなぼくでも、職人のこだわりを感じた日には、出されたものをそのままいただく。そして、感動する。「これだったら、わさびよりこの方がずっとおいしい」


 客の要望に応えるのもプロなら、客の気持ちすら操ってしまうのも、さらにそれを超えるプロの技ではないだろうか。


 翻訳でもそうで、翻訳者は黒子ですなんてのたまう者たちに、いったいだれほどの翻訳ができるか疑問である。


 時々、参考文をつけてきて、これと同じような文体で書いてくださいと言ってくる人がいる。もちろん、それは確かに客の要望ではある。


 料理店でも、客の注文とまったく違うものを出すことはできないが、料金が同じなら、客が思ってもみない高級なものを出しても怒られはしまい。


 翻訳だって同じことで、客がつけてくる参考文はけっしてそれが最高のものだと思って出してきているわけではない。予算の範囲ではその程度のもので十分であると思っていることもあれば、それよりいいものがあることなど、これまで想像だにできなかったということもある。


 客がつけてくる参考文は、ガチガチの文であったり、ぎこちない文であったりすることが多く、「これらの」、「~より」、「すべての」だけが下手印のように無数にちりばめられている。ぼくは当然、こういう西ハワイ語はいっさい使わない。それでも、「これらの」を使っていないというクレームを受けたことはもちろんない。


 ある製薬会社から直の仕事を請けたときも、最後まで自分の信念を貫いた。医薬系の翻訳者なら絶対にしない冒険だ。それでも、クレームを受けるどころか、「原文の意味を正確に汲みながら、ここまで日本語にすることが可能であるとは、思ってもみなかった」という反応が返ってきた。


 客というものは案外、本当においしいものがあるのを知らないのかもしれない。知らないからこそ、ふだんのぼくのように、何でもかんでもわさびで食べたがる。


 そういう客にはわさびを出すしかないが、職人としてはさびしいかぎりである。


 だが、あくまで職人のこだわりを貫き、ぼく以上に頑固な客にわさびを出さないですませるようなテクニックは、残念ながらまだだれも編み出していないのである。


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最終更新日  2006年11月03日 10時32分51秒
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