domino Vol41
79 「なんでここに神田がいる?神田は行方不明のはずじゃ・・・。」 一瞬、僕は神田も和田のような現象じゃないか、そんな風に考えた。少し遠くから神田を観察してみた。特に汚い格好をしている訳でもなく、血みどろでもなかった。それどころか、きちんとしたスーツを着ていた。 「あいつ、友里に何かする気か?」 以前の神田がとった友里への行動を考えるとそう考える方が自然だった。神田の前に駆け寄りこう言った。 「神田。ここへ何しに来た?」 僕の顔を見ると薄ら笑いを浮かべて意外な事を言った。 「大河内さん、この度は結婚おめでとうございます。いや、彼女に今までの事のお詫びとお祝いの言葉をと思いましてね。ご迷惑とは思ったんですが、ちょっと立ち寄らせてもらいましたよ。」 あまりの素直な言葉に僕は何も言う事が出来なくなってしまった。 「ああ。」 しかし、素直な神田はここまでだった。 「ところで、今まで俺がどうしていたか知っています?」 急に以前の嫌みな神田の口調に戻った。態度の急変を感じた僕は、あまり余計な事を言わない方が良いと思い首を横に振るだけにした。 「寒かったなあ。辛かったなあ。痛かったなあ。」 僕の目をじっと見つめたまま、少しずつ顔を近づけてこう言ってきた。神田の言っている意味が全くわからなかった。僕は黙って我慢していた。 「覚えていないんですか?あの日の事?」 「あの日?あの日っていつの事だ?」 いくら考えてみても一向に思い出せなかった。その時に久しぶりにあの声が聞こえた。 「お前は覚えていないよ。勝手にやったんだから。」 「勝手にやった?何を?」 あの声にそう問いかけてみた。 「目の前にいる奴に聞いたらどうだ?」 仕方なく神田に聞いた。 「あの日?あの日って何の事だ?」 このまま、なめられているのも癪だと思い少し口調を強めて言った。 「あんな事をしておいて覚えていないとはたいした神経の持ち主だな。」 いくら神田がそう言っても、僕はあの声が言っていた通り何も覚えていなかった。 「だから、知らないと言っているだろ。」 僕の口調に本当に知らないと思ったのだろうか、少し黙って神田は考え込んだ。そして、大きく息を吸い込み何かの準備をしているようだった。 「じゃあ、これを見せれば思い出せるかい?」 神田の顔が徐々に崩れだした。 「お前はまず俺の右目を喰ったよな。」 するとその言葉にあわせて神田の右目が徐々に大きくなっていき破裂した。その血しぶきは僕の顔にもべったり張り付いた。 「それから左手。」 神田の左手は方からごっそりと落ちた。僕の足下は血だらけになっていった。 「次は顎だったかな・・・。」 神田の鼻から下が無くなり、上の前歯だけが何本か残っていた。 「どういう事だ?どういう事だ?」 「何をした?神田に何をした?」 「答えろ。」 あの声が何かをした事は明らかだった。目の前の神田は僕の目の前でどんどん崩れていった。 「神田って奴が嫌いだったろ?俺たちは血がほしかった。一石二鳥って奴か。」 神田が行方不明になった理由。それは僕が神田を喰ってしまった・・・。もう、全てが理解不能だった。意識が遠くなる気がした。そして、僕の意識はあの真っ赤な世界に飲み込まれていってしまった。80 真っ赤な世界の住人は今まで真っ黒い顔のはずだった。しかし、今は違っていた。神田のような、和田のような、そんな死の世界の住人、普通の神経の持ち主なら気が狂ってしまいそうなおどろおどろしい顔があちこちにあった。 「なんだ・・・。」 あまりの不気味なその姿に僕は自分を見失った。目の前にいる不気味な者をけっ飛ばし、とにかく安全な所を探した。しかし、不気味な者たちは、次々に僕の手を捕まえたり、僕の足を押さえて逃げられないようにしようとした。 全身全霊の力を使いそれらを振り払い僕は逃げた。 しばらく逃げているうちに僕はあるものを見つけた。それはナイフが少し長くなったようなそんなものだった。いくら逃げてもいなくならない不気味な者たちを、僕は全てそのナイフを使って排除する事にした。それしか、僕には助かる手段はないと思った。 まず、一人。それは思ったよりも簡単に終わった。一人殺すごとに僕はだんだんとコツを掴んでいった。 「思ったより奴らは強くない。」 そう感じた僕はとにかく倒しまくった。僕の安息を求めて。 しかし、いくら殺しても奴らは少なくならなかった。それどころか増えている感じさえした。さすがに疲れを覚え、少し休める場所を探そうとした時、僕の行く手を塞ぐやつが現れた。両手を広げ僕をどこへも逃がさないようにとしていた。 「とにかく逃げなければ・・・。」 それだけを考え、僕は思いきり走り、そしてその力を利用して目の前の奴を刺した。 その途端、真っ赤な世界が一瞬にして崩れだした。そこはさっきまでの教会の中だった。手には少しだけ柔らかい感触が残っていた。そして、僕の心を癒してくれたフレグランスの香りがした。 目の前には友里がいた。そして、僕は彼女を刺していた。