NHKスペシャル「追跡・秋葉原通り魔事件」
NHKスペシャル「追跡・秋葉原通り魔事件」秋葉原事件の真相に迫っていました。携帯サイトに残された書き込みをもとに事件の原因を探っていました。書き込みは3,000件。当初はさみしさや孤独感をつづっていましたが,次第に他人への殺意を表現するようになっていきます。6月4日から子ども時代の思い出をつづるようになりました。本人の意志に関係なく親が勉強を強いていたらしいです。夫婦ともどもしかるために子どもの逃げ場がなかったといいます。小中で成績はトップクラスだったそうです。その後,高校で成績不振に陥ります。県立青森高校は有数の進学校です。高校ではほとんど勉強せずに成績はあまりよくなかったそうです。親は4年制大学への進学を希望していた一方,加藤容疑者は短期大学への進学を希望します。そこには,親の敷かれたレールには乗りたくないという親への反発があったようです。ここから,加藤容疑者の生活が一変します。大学卒業後,会社を転々とします。おととしの夏,実家の青森で両親と暮らします。運送業者に勤めますが,親との折り合いがつかなかったそうです。その後1年で実家を離れて,地元や親と連絡を絶ちます。取材を通してわかったのは,親にも頼れず居場所をなくしていったことです。去年4月から働き始めた静岡県裾野市の関東自動車工業。給料は手取り14万円ほど。同僚は,ボーナスもなく確かに割に合わない部分があるといいます。派遣社員からいずれは正社員になることを目指していたようですが,生産調整の話を聞き,いつ解雇になるかという不安といつも隣合わせだったようです。加藤容疑者が唯一のよりどころとしていた携帯の掲示板。他にも「黒の子」という名前で自分を否定する内容の書き込みをしています。その時期は加藤容疑者が地元や親と離れた時期と一致しています。否定的な内容に誰も応答しなくなり,彼は次第に社会への恨みを募らせていきます。犯行3日前の6月5日,自分の作業服がないと騒ぎます。解雇への不安が引き金になったといいます。加藤容疑者に共感する若者が多いといいます。容疑者の行った行為は許せないが,その心情は理解できるというものです。彼らはみな社会からの孤独を感じています。mixiには5日で36万件以上の書き込みがあったそうです。NHKの行ったmixi投稿者へのアンケートによると,300件の回答には,共感できるとの内容が多かったそうです。将来に対する漠然とした不安,社会全体への不満に対する共感です。次に,孤立を深めていく心情に対する共感です。背景にはフリーターや派遣社員として雇用される人たちが置かれている環境があります。いつ解雇されるかわからない。解雇されるときには紙切れ1枚で突然解雇を言い渡されます。自分は社会から必要とされていない。社会に対する不満,絶望感が常に付きまといます。---------------------------------まだ加藤容疑者の犯行の動機は解明されていません。しかし,メディアでたびたび報道されているように,親との関係,職場環境がその要因として指摘されています。学歴社会,一部の勝ち組と多くの負け組を生む競争社会が浸透してしまったことのマイナスの部分が出てしまったのでしょうか。人は生まれた時から数字によって否応なく他人との競争の中に放り込まれます。学校の成績,受験,卒業単位,営業成績,給与所得。。。効率優先,利益追求優先の一方で,人は企業の一部として,人格を持たないモノとして扱われてしまう。日本をはじめ,先進国は新自由主義のもとで国際競争力を維持するための国のあり方を模索しています。この根本原理に対して異議を唱える人はいないし,いたとしてもその流れを止めることはできません。モノや情報の移動に際して,国境のもつ意味がなくなるグローバル化は否応なく進みます。アメリカを中心とした経済のグローバル化は,個人主義,すべてにおける自己の責任を強制します。一方で,職業機会の平等が主張されます。しかし,機会の平等は勝ち組と負け組を生み出し,結果として所得の不平等を生じさせます。そこから恵まれた家庭に生まれた子と,貧しい家庭に生まれた子の間に機会の不平等が生まれてしまいます。加藤容疑者個人をいくら責めても問題の解決には至らないように思いました。だからといって社会がすべて悪いと言い切ることはあまりに短絡的です。みながこの問題と向き合って,社会に深く根を張ったゆがみをひとつひとつ訂正してやらなければならないと感じました。