いじめの標的
町沢静夫(1999):「なぜ「いい人」は心を病むのか」PHP研究所.いじめの標的になりやすい子どもの性格日本の子どもたちの中には,いじめは悪いことだという意識がそんなに浸透していないようです。アメリカと日本で,同時に中学生とその母親に対して行われた意識調査があります。そのなかに「いじめに対してどう思うか」という質問項目があり,「絶対にしてはいけない」と答えたのはアメリカで94.4%,それに対して日本ではわずか64.2%でした。アメリカの社会や家庭がもっている正義感や倫理観が,日本では極めてあいまいであることを表している調査結果だと思います。また日本の別の調査では,いじめる側の61.1%が「学校はとても楽しい」と答えており,当然のことながらいじめられる側では21.1%しかありませんでした。このいじめる側の子どもたちは,勉強やスポーツが苦手という調査結果も出います。つまり,いじめっ子たちにとって学校の何が楽しいのかというと,唯一いじめであるということができるかもしれないのです。しかしいじめは子どもばかりではありません。大人,政治家,官僚,学校の先生方,PTA,医者の学閥制度,教師の学閥傾向,これらは皆おとなの立派ないじめなのです。その大人が子どものいじめをなくそうというのですから滑稽な状況になるのです。ところで,いじめられっ子というのはどういうタイプの子どもたちなのでしょう。彼らはひ弱で自己主張ができません。だから,自分が受け入れられないというようなところには極力行きたくないとして引っ込み思案になります。また,やはり自分を主張できずに人の後ばかり付いていこうとする「依存性人格障害」の子どもたちも,格好のいじめの標的になります。本来は,その子どもたちが強くなって対人関係能力を身に付け,学校でいじめっ子たちにいろんな形で負けないように工夫すべきなのです。しかし,そのためにはやはりお父さんとお母さんが家庭にいて,自分の家の秩序や倫理観というものを教えて身につけさせていかなければ,そのような力はなかなか発揮できません。繰り返しになりますが,その意味でも私は,過保護,いじめ,家庭内暴力,不登校といった一連の社会問題は,初期のしつけ方の低下と家庭からお父さんという核が消えて,母子密着になってしまっていることにその原因を求めることができると思っているのです。----------------------------日本ではアメリカと比べて子どもがいじめを悪いと思っていない理由を説明しています。大人の社会でいじめがあることは,アメリカでも一緒だと思います。日本では,しつけが十分ではないと感じます。日本で「いじめられる子にもいじめの原因がある」と答える子どもがなんと多いことか。水谷修氏が講演した内容が思い起こされます。お父さんは会社で上司にしかられる。たまったストレスは,お酒を飲んで愚痴をこぼせばいい。お母さんは育児で疲れる。たまったストレスは,お母さん同士で高級レストランに行って舌鼓を打てばいい。子どもは親のいう勉強しなさいの連呼に家庭でストレスがたまっていく。強い子どもは弱い者いじめをして学校でストレスを解消すればいい。いじめられた子は,不登校や登校拒否をしてひきこもりできればいい。一番悲惨なのは,いじめられているのに,がんばって学校に行き続ける真面目な子です。学校にも家庭にも居場所がなくなってストレスのはけ口がなくなります。その結果,自分を傷つけたり自殺したりするほど追い込まれてしまいます。社会でたまったストレスは一番弱いところへと向かっていくようです。親は子どものストレスを受け止めてともに解決してあげる必要があります。学校でのいじめがなくならないとしたら,家庭がその解決のための唯一の場所になりそうです。子どもは狭い世界しか知らないし,その中でしか生きることができません。家庭で居場所がない場合に,駆け込み寺のような逃げ場をつくる必要がありそうです。