チッチの思い出 2
チッチの思い出 2すでに警察も動いていると聞いて、なんだか胸騒ぎがした。『もしかして・・・・いや、まさか。』私を含め、友達は皆こういう気持ちだったろうと思う。だから、どの友達も不自然なほどにこの事を楽観視していた。「大丈夫、きっとすぐ帰ってくるって。ゴメンゴメン、なんて言いながらww」しばらくして、muscle girlはみつかった。遠い県の山中で、冷たい身体となって。私がこの事を知らされたのは、大学の夕方の講座中、友達からきたメールによってだった。さっと顔色が青くなったのに気付き、心配する友達の質問にまともに答えることができずそのまま教室を出て、隣の講義室に入った。誰もいない講義室の床にペタンと座って、床を見ていたが目には何も映っていなかった。ふと、顔を上げると広いガラスに鏡の様に偶然自分の姿が映っていた。そこに映っているのは、いつかmuscle girlに言われた通り茶色の髪にパーマをかけた自分。私は泣かなかった。muscle girlは、思い出の中の友達なんかじゃない。高校の合宿で、友達とくすぐり合って転げた彼女。真面目なのに冗談が大好きで、いつも私を楽しくしてくれた彼女。人の長所を見つけるのが得意で、とても優しい彼女。将来はきっと、自分と良く似た明るい子供を産んで毎日を愛する人と幸せに暮らすはずの彼女。muscle girlに、「将来」はもう無い。そんなこと、絶対信じない。信じたくない。そのあと柚という友達に電話すると、彼女はもう声がかれるほど泣いていて、その柚の声を聞いた時、はじめて私は現実を知り、涙を流した。お葬式場は、男女を問わず目を真っ赤にした若者たちでいっぱいだった。「高校の友達」に分類される私たちは、棺の無い2Fに通され、モニター越しにしか参列できなかった。茫然としている私の耳に、すごい音が聞こえてきた。・・・・あの音は、なんだろう。音は強くなり、弱くなりずっと続いていた。金属と金属を耳もとで擦り合わせればこんな音がするのかもしれないが、それは今まで聞いたことの無い音で、本当にその時何の音なのかわからなかった。しかし、式のあとで退場をするために並んだ列が、階段の踊り場まで進んで視界が開けたとき、はじめてその音源がわかった。muscle girlは、最近ある異性からストーカーの被害にあっていたという。まだ、彼女の尊い命を奪った彼から謝罪の言葉は無い。彼は、一瞬でも想像しただろうか。私があの時どうしても「音」としか認識できなかった、遺族の方の悲しみに狂った凄まじい叫び声を。いつか、皺くちゃのおばあちゃんになった私と、あの日のままの、二十歳の彼女が再開するときがきっとくるだろう。私はそのとき、彼女に笑顔で言えるだろうか。色々と辛いこともあったけど、私はあなたとこうしてまた会えたときのためにあなたが好きといってくれた、あの頃の純粋な気持ちのままで私らしい人生をまっとうしたよ、と。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。